投稿日:2024年4月1日 / 更新日:2024年4月3日


 開催日時:2024/2/24(土) 11:10-12:10

 こんにちは。東京大学大学院学際情報学府修士1年の犬田悠斗です。ゲーム教育SIGは、2024年2月23日-25日に開催された日本デジタルゲーム学会第14回年次大会で学会発表を行いました。題目は、「ゲーム開発者リテラシーの未来展望~多面的な視点からの探究~」です。発表者は、岸本好弘先生(一般社団法人日本ゲーミフィケーション協会)、古市昌一先生(日本大学)、財津康輔先生(東京大学)、犬田悠斗です。

 この発表では、上記の4人の発表者が、ゲームリテラシー、ゲーム開発リテラシーに関して幅広い視点から、以下のテーマで発表を行いました。

・「国内外のゲームリテラシー研究の動向」(財津康輔)

・「ゲームリテラシー、ゲーム開発リテラシー、ゲーミフィケーションリテラシーを学ぶワークショップの実践報告」(岸本好弘)

・「ナラティブと認知的不協和とゲーム開発者のための技術者倫理」(古市昌一先生)

・「ゲーム内でのプレイヤーの社会的交流と自己表現に関するゲームリテラシー」(犬田悠斗)

 4人からの発表後には、会場の皆さんとともにゲームリテラシー、ゲーム開発者リテラシーについてディスカッションを行いました。以下で各発表とディスカッションの概要を紹介します。

■企画セッション

・「国内外のゲームリテラシー研究の動向ーゲームリテラシーの測定に関する研究に着目して」(財津康輔)

 財津先生は、国内外のゲームリテラシー研究の動向について発表されました。この発表では、ゲームリテラシー研究に関する文献レビューを通じて明らかになった論点と課題点が提示されました。特に、ゲームリテラシーを測る尺度に着目して発表されました。

 この発表では、ゲームリテラシーは、「デジタルゲームに関わる社会的実践のために必要なリテラシー」と「デジタルゲームに関わる社会的実践によって身につくリテラシー」の2つに分けることができると話されました。そして、その双方において、ゲームを「作る」ことは、デジタルゲームの社会的実践の本質的側面として捉えられていると発表されました。

 続いて、Rosenberg(2011)、財津(2012)、Chung(2021)が開発した、ゲームリテラシーを測定する尺度についての説明が行われました。Rosenbergが開発した尺度は、職場に応用できるスキルなど「ゲームに関わる社会的実践によって獲得されるリテラシー」を測定することを目的としています尺度を開発しています。それに対し、財津は、スキルやマナー・モラルなど「ゲームに関わる社会的実践のために必要とされるリテラシー」を測定する尺度を開発しています。Chungは、これら2つとは別の観点から、インターネットゲームプレイにまつわる問題解決のために、保護者が身につける必要があるリテラシーを測定する尺度を開発しています。

 財津先生は、これらの文献レビューから、ゲームリテラシーの測定に対する課題として、「それぞれが異なるゲームリテラシーの観点から開発されているため統一に至っていないこと」と「ゲームに関わる社会的実践の参加者としてどのような人を想定しているか、またその活動内容の多様さに対応できていないこと」を挙げられていました。そのうえで、〈ゲームリテラシーを「ゲームにまつわる社会的実践に参加しながら、もしくは参加するために身につける能力」と定義すること〉と〈社会的実践の参加者として、測定する対象を定めること〉が必要である、と提言されました。

・「ゲームリテラシー、ゲーム開発リテラシー、ゲーミフィケーションリテラシーを学ぶワークショップの実践報告」(岸本好弘)

 岸本先生は、これまで行われてきたゲームリテラシー、ゲーム開発リテラシー、ゲーミフィケーションリテラシーを学ぶワークショップや授業を基に、それらの重要性について発表されました。岸本先生は、ゲームリテラシーを「ゲームとうまく付き合う能力」、ゲーム開発リテラシーは「ゲームを開発するために必要となるゲームについての深い知識や知恵」と定義されました。そして、ゲームを遊ぶ、創るどちらにおいても、リテラシーとしてゲームの善と悪の双方を学ぶことが重要であると発表されました。

 次に、実践活動として、親子向けゲームリテラシーワークショップについて紹介されました。このワークショップでは、親子でゲームリテラシーについて学び、考えてもらう中で、それぞれに合ったゲームとの付き合い方を話し合ってもらうようにデザインされています。さらに、このワークショップは、「ゲームのよい所は? よくない所は?」や「家庭内でのゲームのルールはありますか?」のような問いかけを中心とした構成になっています。

 ゲーム開発者を目指す生徒や学生に向けたゲーム開発リテラシーの授業についても紹介されました。授業では、生徒自身が「ゲームはなぜ面白いのか?」「なぜ課金してしまうのか?」などのゲームが持つ謎を7つ見つけ、その謎について調べ、ディスカッションしてもらうようにデザインされています。さらに、この授業は、対話や主体的な学びを重視したアクティブラーニングをもとに設計されています。

 加えて、社会人に向けたゲーミフィケーションリテラシーの勉強会についても紹介されました。岸本先生は、ゲーミフィケーションリテラシーを「ゲーミフィケーションを取り入れたサービスとうまく付き合う能力」と定義されています。この勉強会は、問いかけを通じて、ゲーミフィケーションの善と悪の両側面を学習し合えるようにデザインされています。

 最後に、まとめとして、ゲーム(ゲーミフィケーションを含む)は善と悪の部分を持ち、かつゲームはハマるように作られていることを一般の方に伝えていくことが大事であると整理されました。

・「ナラティブと認知的不協和とゲーム開発者のための技術者倫理」(古市昌一先生)

 古市先生は、情報工学などを学ぶ学生に技術者倫理を教えてきた経験を基に、ゲーム開発者が考慮すべき技術者倫理について発表されました。技術者倫理とは、「技術が公衆の安全を脅かす事態を未然に防ぎ、公益の確保に貢献するために必要な知識を学ぶ総合的な学問」で、製造業の不祥事等を受け、1990年代から社会的な議論が巻き起こりました。古市先生も、企業における不正や事故が無くなることを期待して、技術者倫理を長く教えてこられました。担当されている学部2年生を対象とした技術者倫理の授業では、「情報ネットワーク社会と倫理」や「情報新技術と倫理」など15の単元を、過去の事故や事例を紹介しながら教えられています。

 次に、ゲームが持つ拡散力と影響力について、SNSなどのインターネットによる情報発信を引き合いに出しながら説明されました。SNSは誰でも手軽に利用でき、情報発信、拡散できる長所があります。一方で、偽情報の発信が容易にできる短所もあります。また、人の認知に与える影響も見過ごせません。これは、情報の真偽によって判断するのではなく、自分にとって心地良いと思う情報だけを信じるようになってしまう「認知的不協和理論」が原因の1つです。そして、これらの短所を悪用する「デジタル影響工作」のような情報活動が行われています。デジタル影響工作とは、相対的に相手に優位に立ち続けるために、SNSなどのメディアで、データサイエンス、アドテクノロジー、AIを悪用して、ターゲットの行動変容を促すことです。古市先生は、技術者は、これらのデジタル影響工作などの活動を理解しておく必要があると発表されました。

 そして、人気の高いオンラインゲームとメタバースは、SNSと同様に多くの人々に対する情報の発信と拡散を通した影響力を潜在的に備えていると発表されました。具体例として、『Minecraft』内に作成されたウクライナ侵攻をモチーフとした仮想戦場での戦いの事例が紹介されました。古市先生は、ゲームやメタバースが公衆の安全を脅かす可能性があることを、企業や開発者は企画段階から考える必要があると話されました。そしてゲーム会社は独自に倫理規定を定めたり、新人研修の教本などに、ゲームが公衆の安全に及ぼす影響について、開発者の理解が容易な言葉を用いて、例も含めて盛り込んだりする必要があると提言されていました。

・「ゲーム内でのプレイヤーの社会的交流と自己表現に関するゲームリテラシー」(犬田悠斗)

 私は、ゲーム内でプレイヤーの政治的、または社会的活動に焦点を当て、この領域におけるゲーム開発者リテラシーについて発表しました。この発表では、プレイヤーの政治的、または社会的活動とそれらに対するゲーム開発側の対応の事例調査の結果を主に話しました。

 財津(2023)のゲームリテラシー研究に関するレビュー論文では、ゲーム内でのプレイヤーの社会的交流と創造的活動が想定されていないことが課題として挙げられていました。そして、私は、上記の課題の中でも、ゲーム内でのプレイヤーの政治的、または社会的活動に焦点を当てることにしました。これらの活動は、これまで「ビデオゲームアクティビズム」という概念のもと研究が進められてきました。ビデオゲームアクティビズムとは、社会的または政治的変化をもたらすためにビデオゲーム技術を意図的に使用することです。

 この発表では、ビデオゲームアクティビズムの文脈を踏まえ、Cermak-Sassenrath(2018)の分類に基づいて、プレイヤーの政治的、または社会的活動の事例を紹介しました。具体的には、2005 年に『Fantasy Westward Journey』で行われた反日感情を端緒とした抗議活動や2020年に『あつまれ どうぶつの森』内で行われた香港の民主化運動などの事例を紹介しました。事例調査から、プレイヤーの政治的、または社会的活動を大きく2つに分けると、差別的な主張を端緒とした抗議活動と不当な抑圧に対する抗議活動があることが分かりました。そして、ゲーム会社は共通してゲーム内での差別的な主張を端緒とした抗議活動を制限・禁止している一方で、不当な抑圧に対する抗議活動への対応は会社ごとに、そして対象とする事例ごとに異なっている現状を説明しました。

 これらのことから、ゲーム開発者は、メリット、デメリットを十分に考慮した上で、プレイヤーのゲーム内での政治的、または社会的活動を、制限・禁止する基準を決める能力。そして、制限・禁止するか曖昧な事例については、迅速に、かつ厳格に決定を下す能力がリテラシーとして必要になると発表しました。

■ディスカッション

 ディスカッションでは、日本デジタルゲーム学会の倫理綱領の作成について話し合われました。ゲームリテラシーやゲーム開発者リテラシー、技術者倫理は、ゲームに関する活動を規制する性質があるため、企業だけではなく、学会が率先して考え、倫理綱領として形にしていく必要があるという意見がでました。そして、今回の発表、ディスカッションを踏まえて、開発者と研究者双方の規範となる倫理規定を早急に定めようという話になりました。また、ゲーム自体は、悪でも善でもなく、無であり、どのように遊ばれるかによって悪にも、善にもなりうるという意見も出ました。そして、今回のように、ゲームで遊ぶ側とゲームを作る側に分けてリテラシーや倫理を考えていく必要があると話されました。

今回の報告記事は以上になります。ぜひ次回の報告記事もお読みください。それでは。