投稿日:2024年4月21日
福田一史(日本デジタルゲーム学会研究委員長/立命館大学映像学部)
はじめに
さる2024年2月23日より3日間に渡り、大阪樟蔭女子大学(東大阪市)で日本デジタルゲーム学会第14回年次大会が行われました。大阪での現地開催は本学会では初となります。第12回年次大会が大阪国際工科専門職大学(大阪市北区)で開催予定だったのですが、オミクロン株の急速な流行の影響で完全オンラインに変更されたためこれは実現できませんでした。今回はその雪辱を果たすという色合いもありましたが、無事開催に至りました。参加者数は138名とこれまでの年次大会の実績と比較しても盛況な大会となりました。
このレポートでは、筆者の同大会実行委員で、研究委員長という立場からの観点も踏まえつつ、終了後に実施したアンケート調査の調査結果を元にご報告します。過去の大会でもここ数回はアンケートを実施していましたが、今回は数多くの回答が集まったこともあり、単に研究委員や大会実行委員会の参考資料としてだけでなく、調査結果について分析を交えて皆様にご報告いたします。
調査概要
アンケート調査は大会参加者を対象として設計しました。大会終了時に会場でアナウンスし、また電子メールで参加者に一斉メールを送信し、協力をお願いしました。設問の詳細は調査結果と重複するためここでは省略しますが、構成としては回答者の属性のほか、大会やサービスに対する評価、希望する大会の形式、などとなります。
アンケートの回答数は77件であり、参加者の半数強にあたります。
調査結果
図1及び図2は回答者の属性に関する項目であり、会員種別と職業の割合となります。一般会員(45.5%)が最も多いものの半数以下となっています。続いて、非会員の参加者が30%程度で、学生会員が24.7%となります。コロナ禍の後に大会参加者に若い学生や研究者が増えたという印象を持つ方が多いようです。一般会員以外の方々により研究大会が盛り立てられているとも言えそうです。
職業については、大学など研究機関所属の研究者の割合が39%と最も多く、続いて大学院生が23.4%となっています。学部生が20.8%と割合が多いところは本学会の特徴かもしれません。会社員が6.5%、フリーランス3.9%、経営者2.6%と産業界の方々が少なからず参加しています。
図1. 回答者の会員種別
図2. 回答者の職業
図3は回答者の研究大会の参加回数を示したものです。今大会が初めてという方が44.2%と多い結果となっています。新規参入者が多いということはコミュニティとしてはいい傾向だと言えるかと思います。一方、6回以上参加のベテランも27.3%となっており、少なからぬ強固な支持層の存在が伺えます。
図3. 研究大会の参加回数
図4は「本学会の研究大会であなたにとって最も参加する価値が高いと感じられるセッションの形式は以下のいずれですか」に関する回答です。やはり一般発表セッションが53.2%と強い結果になりました。そしてインタラクティブセッションも33.8%とかなり重視されており、これは本学会を特徴づけるひとつの発表形式として確立したと言えそうです。
図4. 参加する価値が高いと感じられるセッションの形式
図5は大会の満足度を示したものです。5が「とても満足した」で、1が「まったく満足していない」と設定しました。92.2%の回答者が5か4と評価しており、かなり高い満足度が出たという結果になりました。満足度の回答理由としては、研究にフィードバックがあった、様々な新しい活動が知れた、様々な人と意見交換できた、などといったものが多く、その他には懇親会が良かった、スムーズな運営、といった開催校に対する意見も少なからず見られました。
図5. 大会の満足度
図6は「今回の年次大会は開催日程を3日間で実施しました。並行して多数のセッションが進行する2日間開催と、少ないセッションで進行する3日間開催、どちらがよいと思われますか」という質問に対する回答です。発表者数が増加傾向にあり、少ない日数で開催するとパラレルセッションが増加し聞けない発表が増え、また会場確保が難しくなる場合もあります。そのような背景と実行委員長のご意向もあり、今回は3日間開催となりました。研究委員会としては、もっとも参加者の意見を知りたいホットなトピックでした。結果的には、3日間開催が61%となりました。今後の研究大会では、開催校の担当者のご意向次第ですが、3日間開催もあり得る結果になったと解釈しています。
図6. 開催日程
なお、図7は上記の図6の結果を会員種別で層別に見た結果ですが、層別に見た場合にも、全体の傾向と同様に3日間開催が支持されている傾向が伺えます。
図7. 会員種別と開催日程
図8は、これまでの参加回数別で層別に出した結果です。こちらを見ると、6回以上参加している参加者からの支持はそこまで強くない傾向が確認できますが、一方で、特に初参加だった層に対して3日間開催が非常に好評であったことが伺えます。
図8. 研究大会の参加回数と開催日程
次の設問は「託児サービスについてのご意見をお聞かせください」でした。本大会では、下記の参照リンクの通り、託児補助の試験的実施を行いました。これについては良いサービスだ、ありがたいといったポジティブな意見が多かったのですが、コスト面やバランスを考えてほしいといった意見もありました。また、補助の形式を分かりやすくしてほしい、といったご意見もありました。
このサービスは前の大会で問い合わせなどニーズがあったため試験的に実施することとなりましたが、この大会では申請や問い合わせは0件でした。今後はもう少し制度を分かりやすくするなどといった努力とともに継続は検討したく思います。
参照:https://easychair.org/cfp/DIGRAJAPAN-14TH
次の設問は「今後希望する研究大会のテーマや基調講演やセッション内容があればお聞かせください」であり、どのようなテーマにニーズがあるかを自由記述で調査しました。回答は多様でしたが、複数の希望があったものは下記のリストの通りです。
- シリアスゲーム/ゲーミフィケーション
- AI
- VR
- ミュージアム/アーカイブ
- 批評/美学
最後の設問は「本学会のプログラムまたは大会運営についてご意見やご希望があればお伝え下さい」です。いくつか回答をピックアップすると、懇親会が豪華で良かった、懇親会の費用が少し高かった、学会として成長してきたが産業界からのハードルが高まっている、学生や若手研究者が繋がれるセッションの必要性、禁煙地域での開催時は喫煙所マップがほしい、人文系の研究が増えてほしい、などといったものがありました。
また、運営のコアメンバーが固定化していて燃え尽きないか心配といった意見もあり、これは委員のメンバー増強や半期交代制などを検討していきたいと考えています。
まとめ
項目ごとの回答を俯瞰してみることでかなり分かる事がありました。特に重要と思われるトピックについていくつか以下で議論してまとめに代えたく存じます。
まず、新しい世代の参加者が増えつつあります。これはゲーム研究シーンの定着化のために願ってもない事象であり、この動向はキープしていかなければなりません。新たな参加者に対して、コミュニティに関与してもらう、馴染んでもらうための機会となる企画などを考えていく必要性があります。セッションの座長により包摂的な運営を心がけてもらうなど、といったことは目下の対策になるかと思われます。
開催期間、託児サービス、懇親会費用などといったトピックについては、回答者間で意見の違いが見られました。ポジティブな回答が多かったのですが、ネガティブな意見もあり、これらについては探り探り妥協点を見出していくことになりそうです。ただし、基本的な方針としては、都度開催校側の意向に委ねられるところが大きい、という結論にならざるを得ないというのが大会運営の実際ではあります。
また懇親会に限らず近年、参加費は高額化の傾向にありますが、批判的な声は回答に一部あるものの少なく、参加者数はむしろ増加傾向を維持しています。研究大会の運営は実行委員とプログラム委員のボランティアとしての協力のお陰で成り立っています。それでも大会単独でみた場合は、赤字となる場合があります。Easychairなど投稿管理システムやJ-STAGEでの予稿集原稿の公開、事前決済システムの導入など、運営の省力化と同時に参加者の便益向上のため様々な施策を導入していることも影響しているものと思われます。ただし、これらを無くしても委員の手間が膨大化することに繋がってしまうことが想定されるため、それはできません。おそらく今後も参加費の高騰は避けられなさそうです。もちろんそうならないよう努力し工夫を施していきたいとは考えています。大会実行委員会と研究委員では、本学会の華である(と私は考えてます)研究大会の運営のため委員として参加していただける方を募集しています。より良い運営のために、新しい観点や意見を求めています。ご希望の方は、電子メール(conference [at] digrajapan.org)にてご連絡いただくか、DiscordでDiGRA JAPAN Researchに入られている方は私(FUKUDA Kazufumi)にダイレクトメッセージでお伝え下さい。福田か他の研究委員に直接お伝えいただいても構いません。
最後に、驚くほど周到に大会運営をご準備いただいた小出実行委員長、それをサポートした尾鼻実行委員、開催校企画ほか運営をご支援いただいた髙木開催校実行委員、大会ウェブページを新たに実装していただいた田端実行委員、手際よくプログラム編成しクレーム対応などを進めてくれた井上プログラム委員長、予稿集ファイルを作成頂いた川村プログラム委員、および様々ご貢献いただいたその他の実行委員、プログラム委員の方々と参加者の皆様に深くお礼申し上げます。
福田一史