投稿日:2024年3月4日 / 更新日:2024年3月4日


「第13回 ゲームリテラシー、ゲーム開発者リテラシー、ゲーミフィケーションリテラシーを考える」を開催

2023/11/24(金) 20:00-21:40

こんにちは。ゲーム教育SIGに所属しております東京大学大学院学際情報学府修士1年の犬田悠斗です。日本デジタルゲーム学会ゲーム教育SIGは、2023年11月24日に、第13回勉強会をオンラインで開催しました。今回は、第14回年次大会(2024年2月23日(金)・24日(土)・25日(日)大阪樟蔭女子大学)での本SIG企画セッション開催に向けて、「ゲームリテラシー、ゲーム開発者リテラシー、ゲーミフィケーションリテラシーを考える」というテーマで勉強会を行いました。
進行としては、まず財津康輔先生(東京大学)、岸本好弘先生(一般社団法人日本ゲーミフィケーション協会)、古市昌一先生(日本大学)、犬田が各々の専門分野・興味関心から上記のテーマに関連する発表を行い、簡単な質疑応答を行いました。その後、発表を踏まえて、年次大会の企画セッションでどのような発表を行うか擦り合わせしました。

 財津先生は、前回の年次大会の企画セッションでの「ゲームリテラシーの研究動向と論点の整理」をベースに、ゲームリテラシー研究の概観について発表されました。それによると国外では、Gee(2003)がゲームリテラシーを提唱し、Buckingham(2007), Zagal(2008), Zimmerman(2008)がゲームリテラシー研究をより深く進めてきました。BuckinghamとZagalは、ゲームリテラシーをゲームを(使って何かを)するためのリテラシーと捉え、Zimmermanはゲームによってもたらされるリテラシーと捉えていました。国内では、馬場(2006)が、メディアリテラシーを拡張する形でゲームリテラシーを捉え、ゲームとの付き合い方、ゲームを使いこなす力と定義しました。その後、松木・松原(2010)、財津(2012)が国内のゲームリテラシー研究を推し進めてきました。ゲーム開発者リテラシーについてはZagalが触れている程度で、まだ十分に議論されていないため、技術者倫理などを参考に本SIGで議論、発表していきたいという話になりました。

 岸本先生は、これまでされてきた数多くのゲームリテラシーに関する講演を基に、ゲームリテラシー、ゲーム開発者リテラシー、ゲーミフィケーションリテラシーに関する考えについて発表されました。岸本先生は、ゲームリテラシーをTVゲームとうまく付き合う能力として定義されています。親子向けのゲームリテラシーの講演では、ゲームに夢中になる理由(ドーパミン)やガチャを引きたくなる理由(射幸心)について話した後、ゲームの上手い活用方法について紹介されています。その講演では、親が子どもの遊んでいるゲームについて知った上で、ゲームを遊ぶルールの必要性などについて子どもとディスカッションすることが大事であると伝えられています。高校1年生向けのゲーム開発者リテラシーについての講演では、ディスカッション形式でゲームの善悪、ゲームのビジネスモデル(ガチャ、課金)、レイティングについて考えてもらい、その後ゲーム開発者倫理について伝えられています。最後にゲーミフィケーションリテラシーについても紹介され、利用者がゲーミフィケーションとは気づかずに使っているサービス(SNS、ECサイトなど)があるので、多くの人がゲーミフィケーションリテラシーを身に付ける必要があると説明されていました。

 犬田は、プレイヤーのゲーム内での活動に関するゲームリテラシーについて発表しました。ゲームはより多くの人々と遊べるようになり、またより自由に動けるようになりました。その結果、ゲームが社会交流・表現の場として機能するようになりました。しかし、これまでのゲームリテラシー研究では、ゲーム内での社会的相互作用を通じたプレイヤーの活動について十分に検討されてきませんでした。そのような中で、ゲーム内での誹謗中傷や不適切な行為が問題なることが増えてきました。また、ゲーム内でデモ活動を行う事例も報告されるようになりました。このような中で、ゲーム開発者は、ゲームのルールだけでなく、ゲーム内のプレイヤーの活動についてもデザインする必要があると考えました。また、プレイヤーはゲームという仮想世界であったとしてもリテラシーを持った行動を行うことが重要であり、メディアリテラシー教育の延長としてゲームリテラシー教育も行っていくべきだと考えました。

 古市先生は、認知戦と情報リテラシーの観点から、ゲームリテラシーについて発表されました。認知戦(Cognitive Warfare)とは、メディア、プロパガンダ、サイバー空間を利用して、特定の目的のために個人や集団の知覚や思考プロセス、意見を変容させる戦いのことです。認知戦は、新聞社などの民間企業から政府機関による情報統制まで様々な形で見られます。古市先生は、この認知戦の対処能力の向上を目的としたシリアスゲームの開発をされており、現在は認知戦のKill Chainの構築をされています。認知戦のKill Chainとは、認知戦における攻撃の行動段階を構造化して整理したものです。古市先生は、この研究をもとに、ゲーム開発者やゲームプレイヤーが常に認知戦にさらされていることに自覚的であることが大事であると説明されました。また、ゲームリテラシーも、最後は情報リテラシーに帰着するので、情報リテラシーを身に付けることが重要であると仰られていました。

 小野憲史先生(東京国際工科専門職大学)は、ゲームリテラシーが叫ばれるようになった社会的背景や、ゲームに夢中になる仕組み、プロパガンダとしてのゲーム事例などについて随時質問や補足説明をされていました。また、北海道医療センターなどと連携してALS(筋萎縮性側索硬化症)の方自身がゲームを開発し、イベントでそのゲームを一般の人に遊んでもらうプロジェクトをされています。プロジェクトが進んだら再度報告していただけるとのことで、大変楽しみです。

 粟飯原萌先生(日本大学)は、ゲームで夢中になる仕組みの説明方法や台湾の白色テロを扱ったゲーム『返校』の紹介、ゲームリテラシー尺度の詳細について、随時質問や補足説明をされていました。
 次回年次大会の企画セッションの発表方法については、「これからのゲームリテラシーを考える」をテーマに、財津先生がゲームリテラシーの概観と論点の整理について発表を行い、その後岸本先生が講演を基にゲームリテラシー、ゲーミフィケーションリテラシーについて、古市先生がゲーム開発者倫理について、犬田がプレイヤーのゲーム内での活動に関する倫理について発表する。そして、最後にこれまでの発表を踏まえてパネルディスカッションを行うという形が良いのではないかという話になりました。

今回の報告記事は以上になります。ゲームリテラシーについて多角的に考えることができ、今回の勉強会も大変勉強になりました。次回勉強会は、1月19日に「クラウドソーシングゲームの未来について考えるー遊ぶことで社会貢献できるゲームの可能性ー」を行う予定です。ぜひ次回の報告記事もお読みください。それでは。