投稿日:2024年3月3日 / 更新日:2024年8月17日


「第14回 クラウドソーシングゲームの未来について考えるー遊ぶことで社会貢献できるゲームの可能性ー」を開催

開催日時:2024/1/19(金) 20:00-21:30

 こんにちは。東京大学大学院学際情報学府修士1年生で、日本デジタルゲーム学会ゲーム教育SIGに所属する犬田悠斗です。本SIGでは、2024年1月19日に、第14回勉強会をオンラインで開催しました。今回は、「クラウドソーシングゲームの未来について考えるー遊ぶことで社会貢献できるゲームの可能性ー」というテーマで勉強会を行いました。
 進行としては、まず犬田から上記のテーマで発表を行い、その後全体でディスカッションを行いました。発表では、これまで行ってきたクラウドソーシングゲームに関する研究を紹介しました。「未来」について考察してもらうために、できる限り多角的な観点からクラウドソーシングゲームについて説明することを心掛けました。

■発表
 はじめに、クラウドソーシングゲームの定義から紹介しました。クラウドソーシングゲームとは、「不特定多数の人々に余剰の時間を用いて、現代の諸問題の解決のために必要なタスクを実行してもらうゲーム」のことです。より簡潔にいうと、遊ぶことで社会貢献することができるゲームのことを指しています。具体例としては、マンホールの写真を投稿し、ダメージ状態を報告するゲームである『鉄とコンクリートの守り人』¹が挙げられます。1章では、類似概念や具体例の紹介などを通じて、クラウドソーシングゲームの輪郭を示しました。
 2章では、私が開発したクラウドソーシングゲームのプラットフォームである『Meta Crowdsourcing Game』²を紹介しました。クラウドソーシングゲームのプレイヤーは、ゲーム自体ではなく、扱っている個別のテーマに関心がある人が多いです。そこで、より多くの「ゲーム」と「社会貢献」が好きな人々に遊んでもらうために、クラウドソーシングゲームを1箇所にまとめたプラットフォームを開発しました。また、クラウドソーシングゲームをプレイしても、プレイヤーが社会貢献をしていると実感しにくいことも問題だと考えました。そこで、クラウドソーシングゲームをプレイすることでポイントが獲得でき、仮想の社会が発展するというゲーム要素を加えました。このことで、即時的に社会に貢献していることをフィードバックすることができ、社会貢献への実感が湧きやすくなったと思います。この章では、このプラットフォームゲームの中身をお見せしました。
 3章では、クラウドソーシングゲームの開発研究を紹介しました。具体的には、修士研究で行っているゲーミフィケーションを活用した質問紙調査の開発研究を紹介しました。質問紙調査は、研究やマーケティングなど多様な場面で広く使用されている一方で、質問内容を理解せずに回答する人の存在や動機付けの欠如など多様な問題が指摘されています。そのような中で、ゲーミフィケーションを活用してこれらの問題を解決しようとする研究が行われています。その中で、私はまだ研究されていないシナリオ提示型の質問紙調査に目を付けました。特に実験哲学分野における質問紙調査に焦点を当て、開発研究を行っています。この章では、先行研究や開発フレームワーク、プロトタイプを紹介し、現在の研究内容をざっくりと紹介しました。
 4章では、クラウドソーシングゲームと教育に関する研究を紹介しました。具体的には、科学研究の推進を目的としたクラウドソーシングゲームである『Foldit』³、『Eyewire』⁴、『Stall Catchers』⁵のプレイヤーの学習活動に関する研究を紹介しました。研究結果として、これらのゲームでは、ゲームプレイを通じて扱っているテーマに関する学術的知識を理解し、さらにコミュニティで質問、議論することでその知識を深めるという構造ができていることが分かりました。
 5章では、クラウドソーシングゲームが描く未来について、自分の見解を述べました。今後ゲームプレイヤーの人口が増加していき、ゲームプレイヤーで溢れた社会になっていくことが予測されています。そのような中で、社会全体に関わる課題に市民がゲームを通じて取り組む社会を、クラウドソーシングゲームを通じて、実現することができるのではないかと考えています。

■ディスカッション
 ディスカッションでは、発表を受けて、先生方からコメントをいただきました。小野憲史先生(東京国際工科専門職大学)からは、「クラウドソーシングゲームの面白さとは何か」や「面白いクラウドソーシングゲームをデザインする上で重要な要素を分析する方法」などについて意見をいただきました。また、クラウドソーシングゲームの重要な要素としてコミュニティ(クラウド=集団)があり、ゲーム要素が付与されることで、コミュニティの面白さが高められているのではないかという指摘もいただきました。
 古市昌一先生(日本大学)からは、「クラウドソーシングゲームの分類の必要性」と「クラウドソーシングゲームにおけるゲームとは何か」について意見をいただきました。また、「現在開発されている『BScanner』⁶」についても紹介いただきました。
 川村景吾先生(フリーランス)からは、「Wikipediaなどの知識を集積する行為もクラウドソーシングゲームになるのではないか」という意見をいただきました。
 粟飯原萌先生(日本大学)からは、「幅広い人に遊んでもらう工夫として、1つのゲームに様々なゲームジャンルを用意する方法があること」や「質問紙調査はクラウドソーシングといえるのか」という意見をいただきました。
 岸本好弘先生(一般社団法人日本ゲーミフィケーション協会)からは、『鉄とコンクリートの守り人』と『Biome』⁷の事例紹介や「社会貢献とゲームの相性」について意見をいただきました。
 財津康輔先生(東京大学)は、同じ研究室に所属していることもあり、「研究室外の先生方から多様な意見を聞けて良かったね」と感想をいただきました。
今回の報告記事は以上になります。次回勉強会は、3月22日に日本デジタルゲーム学会第14回年次大会⁸の振り返りを行う予定です。ぜひ次回の報告記事もお読みください。それでは。

【参考】

  1. 『鉄とコンクリートの守り人』, Whole Earth Foundation Ltd., 2022. (iOS, Android)
  2. 『Meta Crowdsourcing Game』, 犬田悠斗, 2023. (WEB).
  3. 『Foldit』 , University of Washington, 2008.(PC)
  4. 『EyeWire』, Princeton University(formerly Massachusetts Institute of Technology), 2012. (WEB)
  5. 『Stall Catchers』, Human Computation Institute, 2016.(WEB)
  6. 『BScanner』, 宮田研究室, 開発中.
  7. 『Biome』, 株式会社バイオーム, 2019. (iOS, Android)
  8. 2024年2月23日(金)~25日(日)に 大阪樟蔭女子大学 にて開催される日本デジタルゲーム学会第14回年次大会は、こちらのURLから参加申し込みが可能です(URL:https://digrajapan.org/?p=9594)