投稿日:2022年7月8日 / 更新日:2022年7月8日


(参加者)
石川ルジラット(青山学院大学 総合文化政策学部 助教)
落合一樹(TMI総合法律事務所 アソシエイト)
中村鮎葉((一社)令和トーナメント 理事)

(司会)
近藤史一(広報委員、杏林大学保健学部臨床心理学科)
構成:小野憲史(東京国際工科専門職大学)

女性の写真のコラージュ

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近藤:皆さんこんにちは。今日は日本デジタルゲーム学会の広報委員会が企画するゲームスタディインタビューズにご参加いただき、ありがとうございます。本企画は毎回、ゲーム研究にまつわるテーマを立てて、その分野の専門家の方々にお集まりいただき、議論していただくという内容です。今回のテーマは「ゲーム実況の未来」とさせていただきました。

まず私の方から自己紹介をさせていただきます。日本デジタルゲーム学会の広報委員で、杏林大学保健学部臨床心理学科で臨床心理学を勉強中の近藤史一と申します。Twitchパートナーとしてゲーム実況を配信中で、大学に入学するまでゲーム実況専門の会社も経営していました。本日は全体進行とファシリテーターをつとめさせていただきます。

石川:青山学院大学総合文化政策学部助教の石川ルジラットと申します。ニックネームはギフトです。大学の知財と社会問題研究所(SSP-IP)で所員もしています。タイ人で、2005年にチュラロンコン大学のマスコミ学科を卒業後、東京大学大学院情報学環・学際情報学部で修士号と博士号をとりました。修論ではコミティアスタッフのフィールドワーク、博論ではニコニコ動画の歌い手に焦点を当て、日本のソーシャルメディアにおける創作文化のプラットフォーム化について研究しました。2020年4月から現職として、日本の創作文化、ポップカルチャー、ソーシャルメディア、そしてゲーム実況について研究しています。

他にオタクで、腐女子で、タイのプチ・インフルエンサーでもあります。フェイスブックページで12万人ぐらいフォロワーがいて、タイのテレビにも出演しています。

落合:弁護士の落合一樹と申します。専門分野はM&Aなどのコーポレート分野とゲーム業界における法律です。主に企業のM&Aや、ゲーム関連企業のスタートアップ支援、最近だとeスポーツ大会の法律監修などの分野を担当し、ゲーム業界をサポートさせていただいております。

ゲーム業界に興味を持ったきかっけとして、小学生の頃に『逆転裁判』というゲームをプレイしたことがありました。当時、弁護士というかっこいい職業があるんだ、弁護士になりたいと思い、気がついたら大学で法学部に入学し、法科大学院に進学し、司法試験を受験して、弁護士になってしまいました。入所後も自分を育ててくれたゲームに恩返しをしたくて、ゲーム業界の案件を積極的に志望していました。段々とノウハウが私に集約してくるようになり、最近では企業様からご指名で案件をいただけるようになり、ゲーム業界の専門家として、近藤先生とご一緒にラジオ配信を行うなど、様々な活動をしています。ゲーム実況については、中高生の頃からよく視聴していたこともあり、関心があるテーマですので、今日も法律家の観点からいろいろ議論ができたら楽しいんじゃないかなと思っております。

近藤:落合先生とはCEDEC2021のセッション「ゲーム実況におけるエコシステム及び法的な権利関係についての一考察」でもご一緒させていただきましたよね。改めてよろしくお願いします。

中村:中村鮎葉と申します。ゲーム実況のことしか分からない人物です。企業人なので、この中ではだいぶ浮いていますよね。ゲーマー出身で、仕事でもゲーマー向けにライブ配信や大会運営の普及啓蒙活動をしています。アカデミックな経歴では東京大学の工学部出身で、インターフェースやデバイス系の研究室にいましたが、最近ではコミュニティ心理学、Philosophy of Sport、法哲学などの研究をしています。

細かいところでは日本でストリーマーという用語を使いはじめた人物です。私が就職した頃は、まだ生主や実況主という表現が主流でした。今でも台湾では実況者という用語が主流です。一方で日本ではストリーマーという用語がかなり普及してきています。他に趣味でゲーム大会やイベント運営をしています。eスポーツ界隈について知識提供を求められることもありますね。その過程でさまざまな疑問が出てきまして、今日はそういった議論ができることを楽しみにしています。

近藤:中村先生は研究活動もされていますよね。

中村:はい、ゲーム論文大賞とある論文賞に論文を投稿したところです。将来的にプレイヤー視点を持ちつつ、アカデミックな分野で活動していきたいと考えていますので、お声がけいただき、本当にありがとうございました。

ゲーム実況とは何か

近藤:はじめに「ゲーム実況」の定義について簡単に整理しておきたいと思います。文献やウェブの記事などでは、下記のような定義があるようです。皆さんの方で何か感想やコメントなどはありますでしょうか? ちなみに最後の定義は、私と落合先生がCEDEC2021で登壇したときに提示したものになります。

文字が書かれている

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中村:これはゲーム実況をゲーム実況者の側からしか定義していませんが、視聴者がいるという前提でいいですよね。視聴者がいなくてもゲーム実況にはなりますが、プレイ風景を動画やライブで配信する時点で、視聴者という役割が発生します。

近藤:そうですね。僕の認識ではゲーム実況には、リアルタイムであってもなくても、実況者と視聴者による双方向のコミュニケーションが必要なのかなと思っています。そのため視聴者の存在は前提なのかなと思っていました。ちなみに、CEDECの時に藤原先生と議論したときは、あえて双方向という文言は入れませんでしたよね。

落合:いま近藤先生がおっしゃられた通り、ゲーム実況の定義について、公的なものは存在せず、揺れていますね。私たちがCEDECで用いた定義もかなり幅広なものになっています。実際、ゲーム実況をどう定義するかは非常に難しい問題です。例えば双六などのアナログゲームを実況したらゲーム実況にあたるのか。それともゲーム実況における「ゲーム」とは、デジタルゲームだけを指すものなのか。そういったところまで含めて、かなり細かいところまで議論しました。

近藤:一方で本件については石川先生にも個別にご相談させて頂きましたよね。テレビ番組で行われていた「ゲーム実況」的な番組についても、ゲーム実況に含まれるのかという。

石川:私の専門分野である文化的な側面からゲーム実況について考察すると、そうしたテレビ番組なども、含まれるべきだと考えています。

落合:ほかにもプラットフォーム上での公衆送信が存在せず、イベント会場でゲームをやっているのをみんなで集まって見ているのはゲーム実況なのか、などの視点もあり得ますよね。そのような興行的なイベントと典型的なゲーム実況の差分を考えてみても、議論の実益があるかどうかは分かりませんが、面白いかもしれないですね。

近藤:ありがとうございます。この点については後で改めて議論したいと思いますが、まずはゲーム実況の定義は未成熟であるという点をふまえて、議論を続けていきたいと思います。

ゲーム実況と著作権を巡る現状

近藤:今回は事前に皆様に質問を提示していただきました。その中でも、まずは著作権について議論していきたいと思います。ゲーム実況は一般的にゲーム会社が販売している、商品やサービスとしてのゲームを使用しているわけですが、そのゲーム自体にも著作権があります。では、「ゲーム会社とゲーム実況者が全面対決を起こしたら、皆さんはどちらの立ち場につかれるでしょうか?」

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中村:これは私が出した質問です。歴史的にみると、ゲーム実況はほぼ違法だったところから、利用規約を守れば合法という時代に変わっていきました。つまりゲーム実況は、プレイヤーがはじめに実態を作ってしまって、ゲーム会社が後から追認をしてきたことになります。そうした流れの中で、これまでいくつかゲーム会社が個々のタイトルについて、配信を禁止する事態がありました。EVO2013で『大乱闘スマッシュブラザーズDX』の配信を当初、Nintendo of Americaが禁止しようとしたのは好例です。似たようなことは今後、日本でも起こる可能性があります。その時に皆さんは、ゲーム実況者と企業側のどちらの立ち場に立たれるでしょうか? 私は職業上、ゲーム実況者に立ちます。

石川:『エルデンリンク』も発売前に配信が可能か否か不透明な状況があり、フロム・ソフトウェアが急遽、正式なガイドラインを提示しましたね。ただ、ガイドラインでは「非営利なら配信できる」とありましたが、どこまでが非営利なのか、という別の問題が出てきました。今後もこうした問題は続きそうです。私としては、ゲーム実況者側も企業側もどちらの立ち場も尊重したいですね。両方が話し合いながら、その中間に位置する部分を一緒に作り上げていくことが大切だと思っています。私が研究している「プラットフォーム化」という概念も、まさにそのことを意味しています。

落合:中村先生と石川先生のように、様々な立場から様々な意見があると思いますが、議論を盛り上げるために、今回は法律家の立ち場から話をさせていただきます。石川先生のおっしゃるような政治的な解決が望ましいと思う一方、もし仮にゲーム実況者側と企業側で全面戦争が起きたとしたら、法律的にはゲーム会社側が勝ちます。そのため私としては、ゲーム会社側に立たざるを得ません。少なくとも日本の著作権法上では、原則として著作権者の意向が最優先されますです。ケースバイケースではあるものの、ゲーム実況をするための権利制限規定がない日本において、少なくとも法的な原則論としては、著作権者が駄目だといえば、それまでとなります。

近藤:一方で現在は多くの企業で配信ガイドラインを整備する動きがありますよね。法律的にはどのように捉えれば良いのでしょうか?

落合:著作権法の規定や運用が緩まったのではなくて、違法だった世界に先駆者が足を踏み入れて、追従者が何人も出始めた結果、獣道のようなものができはじめたので、後からゲーム会社が歩きやすいように道を広げて、舗装してくれたということだと思うんですね。もともと日本では著作権は権利者の許諾がある場合には著作権法違反にはならないので、著作権者がNOと言わない限り、明示的に違反状態にはなりません。そのため権利者が許諾しないものは違法という法律の建前は変わらないのだけど、文化的な流れに対して、ゲーム会社がなんらかのメリットを見いだして、明示的な許諾ではないものの、許諾のようなものを与える方向性に向かっているのだと思います。そういった意味で、法律や規制が緩和されたという印象はありません。

中村:今日は他にもいろいろな話が出てくると思うのですが、はじめにそれぞれの立ち場が明確になっておいたほうが、議論がわかりやすくなるのかなと思い、こういった質問をさせていただきました。

ゲーム実況者はゲーム会社に使用料を払うべきか

近藤:では次のトピックに行きましょう。「ゲーム実況者はゲーム会社にゲームの使用料を、レベニューシェアのような形で払うべきでしょうか?」 

石川:この質問は私が出しました。先ほどの議論でもありましたが、今でもゲーム実況がグレーゾーンにあることに変わりはありませんよね。そこから一歩進んで、もっと合法的な解決策があるのではないかと思っていて、レベニューシェアもその一つかなと思っています。何か新しいルールができることで、さらに抜け道ができる可能性もあると思うのですが、いかがでしょうか?

落合:使用料を取るべきか否かという「べき論」で話を進めると、いろいろと難しいかなと思います。そもそも、どんなビジネスをやろうが事業者の自由であって、この点は憲法上営業の事由が保障されていることからも明らかです。そのため、使用料を取って全員に許諾を与えるべきかどうかという「べき論」で話を進めると、究極的には事業者の自由であるという結論にならざるを得ないと思います

その一方で、現行の法制度の中でも、ゲーム実況版JASRACのような著作権管理団体を立ち上げるなどの議論はあり得ると思います。ただ、その場合はゲーム会社の協力が不可欠ですよね。音楽家の数だけ楽曲があるといっても過言ではない音楽業界と違って、ゲームは会社数がかなり限られてくるので、管理団体に任せるメリットが乏しいんじゃないかと思うんですよ。もっとも、時代の流れの中で全事業者が足並みを揃えて管理団体を立ち上げようということになれば、それはそれで素晴らしいと思います。

中村:まさに仕事でかかわっている部分なので、今日話している内容は全て個人的な見解なんですが……。

近藤:わかります(笑)

中村:日本には20前後のライブ配信プラットフォームと、10前後の動画プラットフォームがあります。一つの国、一つの言語圏でこれだけ乱立しているのは、たぶん世界でも例を見ないと思うんですね。その中で多種多様なコンテンツが配信されています。この多様性が日本の特徴です。

ただ、その中でも収益化に成功しているゲーム実況者は一握りです。ほとんどの人は月に1万円も稼いでいません。そういう現状で、ゲーム会社が零細実況者の売上までチェックする必要があるのか、コスト面でもプライバシーの面でも疑問です。一方で仮にレベニューシェアなどの仕組みができたとしても、そこで一定の使用料が徴収できるタイトルは常に変わっていきます。そのためゲーム会社にとっても、労多くして功少なしになるのではないかなと……。

個人的にはゲーム実況者はゲーム会社にタイトルの使用料を払うべきだと思います。倫理的に考えてみてもそうです。ただ、現実問題として、実現できない理由がある。そうした側面もあるかと思います。

石川:私はゲーム会社ではなく、YouTubeやTwitchなどのプラットフォーム側がそうした仕組みを作るべきだと思うのですが、その点はいかがでしょうか?

中村:個人的な意見ですが、技術的には可能だと思います。ただ、シリコンバレー界隈から風の噂で聞こえてくる内容って、逆なんですよね。ゲーム実況者がゲーム会社に使用料を払うシステムではなくて、ゲーム会社がゲーム実況者にお金を払って、自社のゲームを配信してもらうようなサービスを作りたい……そんな風に考えるエンジニアが多いようです。

落合:このトピックだけで時間を使ってしまうと、もったいないと思うのですが、別の視点も共有させてください。使用料を払えば誰でも配信できるようになると、たしかに画一的で明確になりますが、一方でゲーム会社同士のダンピング合戦になる恐れもあります。ゲーム実況者の立ち場からすると、使用料を払わないですむゲームの方が魅力的に映るじゃないですか。一方でゲームクリエイターの側からすると、純粋におもしろいゲームを作りたい、そうして面白いと思ったゲームを配信して欲しい、という意識があるのではないでしょうか。実際、ゲームクリエイターの方と接していると、純粋なゲームの面白さで勝負したいと考えていて、そういった純粋なゲームの面白さ以外に、プレイされるゲームが選ばれる余計な要素は入れたくないと考えている、職人気質な方が多いように感じます。そして、そのようなクリエイターの考えを尊重している経営者が多い印象です。ですので、「このゲームは配信の使用料が安いから選ばれている」といった、ゲームの本質部分に関わらない余計な考慮要素を入れたくないという要請も、あって然るべきだと思っています。もっとも、中村先生のおっしゃるような、画一的に明確な線引きをするためにも、誰でも使用料を支払えばゲーム配信を行うことができる制度にしようという意見には賛同できます。

近藤:使用料の制度があれば、ゲーム実況者の立ち場からすれば、確かに楽ですよね。一方でステークスホルダーには、それぞれ違った考え方があることもわかりました。興味深いトピックであり、今後も継続して議論していきたいですね。

ゲーム実況における生存戦略

近藤:それではコミュニティに話を移したいと思います。まず石川先生からいただいた質問で、「ゲーム実況を職業化できる人とできない人その違い」について議論していきましょう。おそらく中村先生が1番詳しいのではないかと……。

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中村:職業化できる人とできない人の違いは年収です(笑)。ただ、そこには、とてもいろんな要素があります。まず、動画チャンネルとライブ配信チャンネルで作戦が違います。単純に説明すると、動画チャンネルでは広告収入がメインになるので、動画を何回クリックして再生されるかが勝負です。10万回再生される動画を月に5本から10本、コンスタントに作成できるかという世界です。そのためには、流行っているゲームの動画をアップすることが大切です。広告業界でアドテクなどを専門にされている方と発想が近いもしれませんね。

これに対してライブ配信チャンネルは違います。ライブ配信では同時接続が100人いて、その人達に月額課金やスーパーチャットなどで課金してもらえれば、生活が可能です。そのためには熱心なリピーターを集めることが重要です。動画をクリックされるか否かではなく、このチャンネルが好きだと思ってもらえるように、コミュニティを作って運営していくスキルが必要です。そのためには、言葉づかいなども含めて「お行儀良く」することが大切です。他に長く続けること、流行っているゲームではなく、人と違うゲームをすること、なども求められます。

石川:「お行儀良く」するという言葉の意味について、もう少し教えてもらえますか? というのも、私が良く見ている配信者は、「お行儀が良くない」んですね。口が悪くて、とても子どもには見せられない内容ですが、ゲーム実況がおもしろくて、つい見てしまいます。ここでいう「お行儀が良い」というのは、丁寧な言葉使いをすることなのか、それとも真面目にゲームに向き合うということなのか。

中村:言葉遣いもゲームへの向き合い方も、全部含めて「お行儀よく」だと思います。ちなみに、その方は、ライブ配信チャンネルだけですか? 動画チャンネルもされていますか?

石川:両方やっています。といっても、ライブ配信の内容をアーカイブして、誰でも後から見られるという形ですが。

中村:断言はできませんが、動画チャンネルをやらずにライブ配信チャンネルだけで生き残っている方は、希だと思います。動画チャンネルが強いからこそ、ライブ配信チャンネルがうまくいっている。またはその逆といった、相互に補完しあう関係があるはずなんです。そのうえで、動画チャンネルとライブ配信チャンネルのどちらが良いかと言われたら、それは人によるとしか言えません。自分が好きな方を選べば良いと思います。

近藤:ゲームの競技シーンでも、ちょっとした言葉遣いが問題でトラブルに発展した事例がありますよね。「お行儀良く」というのは、こういった意味でも大事なのかなと思いますが、法律的にはどうなんでしょうか?

落合:簡単な話で、スポンサー次第だと思います。個人がスポンサーとしてついていて、「投げ銭」みたいな形で収益を得ている場合は、多少「お行儀」が悪くても、そこに魅力を感じて支援し続けてくれる人が、周りにいればいいわけです。そのうえで、実際に気分を害されたり、被害を受けられたりした人と、個々のゲーム実況者がどう向き合っていくかという話になります。これに対して企業からスポンサードを受けていて、広告塔になっている方達は、一定程度素行が規約で縛られているはずです。私達もスポンサー契約のレビューをする際に、他人の誹謗中傷をしない、差別的な発言を行わないなど、世界のトレンドにあったコンプライアンス規定の有無を必ずチェックします。

中村:そうですね、私もスポンサーがついているかどうかだと思っています。

近藤:ありがとうございます。ちなみに石川先生に個別質問がきていまして。「現代では数字が大きいことが重視されていますが、単純な数字の大きさは解釈として文化たりえるのでしょうか。」

石川:どういう数値を解釈の尺度にするかですよね。一般的には再生数や登録者数などですが、私は文化としてゲーム実況を見る場合、配信者同士のコラボ数にも注視しています。アメリカでは一人でゲーム実況をする文化が強いですが、日本の場合はニコニコ動画の時代から、ゲーム実況者間のコラボが多いように感じます。そんな風にコラボ数が増えるとコミュニティの成長に繋がるのではないかと思っていて。これは日本のコラボ文化に影響を受けていると思います。

中村:コラボ数が指標になる……ゲーム実況者の社会化ですね。言われてみれば、たしかにそうですね。

プラットフォームは分けるべき? まとめるべき?

近藤:続いてプラットフォームの話をしようと思います。「プラットフォームがたくさんある中で、実況をするプラットフォームを分けた方が良いのか、それとも一つに集中した方が良いのか。」また、「今から実況を始めるとしたら、どのプラットフォームがいいのか。または、どのようなプラットフォームが適しているのか。」いかがでしょうか?

中村:統計的な検証をしたことがないので、感覚的な話になりますが、動画チャンネルでは視聴者の導線が多い方がいいと思います。一方でライブ配信チャンネルでは、一つに絞ったほうがいいです。先ほどの議論にもつながりますが、動画はコンテンツなので、視聴者の目につきやすいようにしてあげることが大切です。これに対してライブ配信チャンネルは居酒屋に近い世界なので、いろんな場所で配信するとコミュニティの分断につながると思うんですね。そのうえでゲーム実況を今から始める場合、どこから始めるのがいいのか。動画チャンネルでは特にありませんが、ライブ配信チャンネルに関しては、あなたが普段から良く見ているプラットフォームにしてください。

近藤:雰囲気が分かるとか、そういうことですか?

中村:そうですね。ライブ配信は共鳴なんです。視聴者が配信を見て内容に共感すると、ゲーム実況者を応援してくれて、リピーターになってくれるんです。その時に文化が合っていたり、空気が分かっていたりすると、視聴者も共感しやすいし、フォロワーにも、リピーターにもなってもらいやすい。そのため、ご覧になってるところにしてください。

石川:たとえば、一つの配信で三つのプラットフォームで一気にライブ配信できるようなツールやサービスがあれば、使った方がいいですか?

中村:使わない方がいいです。それよりも一つのプラットフォームでまとめた方が良いですね。いま調べている途中なんですが、複数のプラットフォームに向けて同時にライブ配信した方が、視聴者数は増えます。ただし、そこから伸びません。3ヶ月続けた時の成長率が、プラットフォームを一つに絞った方と比べて悪いです。

近藤:すごく興味深いですね。ただ、実際に複数のプラットフォームに同時配信するとなると、プラットフォームごとに利用規約が異なる場合があります。どのように意識したらいいでしょうか?

落合:それぞれの利用規約を遵守すれば良いと思います。注意点として、他社のプラットフォームとの併用について禁止する項目がないか、確認してみてください。

近藤:冒頭の定義論について補足の議論もさせてください。「ゲーム実況の定義にテレビ番組を加えるべきか否か」です。私の中ではテレビ番組はゲーム実況に含まれないというイメージがあります。そうするとゲーム実況は2000~2001年ぐらいに生まれた文化ということになりますが、いかがでしょうか?

石川:私の立ち場からすると、テレビ番組などもゲーム実況に入れるべきだと思っています。たしかにテレビ番組はインターネットではないし、双方向でもないし、扱っているものがデジタルゲームではない場合があります。しかし、そうした番組があったからこそ、現状に繋がったとも言えます。例えばマンガで言うと、日本には絵巻物の文化がありましたよね。それが今の漫画文化と全く関係がないかというと、そうではない。マンガはそこから発展してきたものだと言えます。同じように、ゲーム実況について話す時は、どの範囲での話なのか、最初に明示した方が良いでしょう。たとえば「今回は現代のゲーム実況について話します」だとか、「今回はゲーム実況を幅広く捉えて、テレビ番組も含めます」だとか。同じように「現代のゲーム実況について話しますが、ニコニコ動画の時代は含めません」だとか。一口にゲーム実況といっても、ニコニコ動画の全盛期と今とでは、すでに違ってきていますよね。だからといって、ニコニコ動画の時代をなかったことにすることはできないわけで。

落合:非常に参考になります。ふたたびCEDECなどで登壇する機会があったら、今の議論をぜひ参考にさせて頂きたいですね。

近藤:中村先生は自己紹介の時に、日本でストリーマーという言葉を使い始めたという話をされましたよね。テレビに出てゲーム実況的な活動をされていた人達は、中村先生のイメージするストリーマー像と重なる部分はありますか?

中村:そもそも論として、人間がゲームをしている姿が映像で流れているので、重なる部分はあります。ただ、それをストリーマーと呼ぶかというと、現代の定義とは合わないと思います。共通する部分はあるけど、完全に一緒ではないよねと思います。

近藤:なるほど分かりました。ありがとうございます。

ゲーム実況者のメンタルケアは誰が担うのか

近藤:続いて実況者のケアに移りたいと思います。いわゆる「配信疲れ」にどう対処したらいいかという問題です。実際、多くの時間をゲーム実況に費やしても、全然数字が伸びないケースが多いと思います。そのような場合に配信を続けるべきなのか、やめるべきなのか。趣味の範疇であれば、嫌だったらやめればと思うんですが、ある程度収益化が成功して、仕事として実況されている方の中には、数字が伸びないことをプレッシャーに感じている人もいるのではないかと思います。そんな時に、どうしたらいいのかと。

中村:一休さんではありませんが、「和尚さん、配信をしているのに数字が伸びていないストリーマーを、目の前に出してください」と言います。というのも、人によってパターンが全部違うんですよね。ちゃんとその人の話を聞いて、配信を見て、過去のアーカイブを見て、伸びている時期に何をやっていたのか調べて、色々理解した上でなければ、回答はできません。そのうえで、収益化に多少なりとも成功しているから、途中でやめられないという場合は、一回休んだ方がいいと思いますよ。動画チャンネルでは中断してしまうと、チャンネルの勢いが止まってしまう側面がありますが、ライブ配信チャンネルではダラダラ続けることの方がデメリットだったりします。この人はやりたくないんだなっていうのが、視聴者に対して、画面ごしに伝わりますからね。

そのうえで、なぜ他人の作ったゲームを使って情報発信をして、収益が得られるのか、考えてみて欲しいんです。私はゲーム実況という行為の前に、ゲームをしたいという人の意思があると思います。この人はゲームがしたいから、ゲームが好きすぎるから、ゲームに対する愛があふれて、配信という行為につながっているわけです。デカルト的に言えば、「我ゲームをしたいが故に我ある」というか。にもかかわらず、ゲームをやりたくないんだったら、「我なし」でしょう。そこまでいったら、1回離れた方がいいですよ。

そのうえで、誰でもいいから相談してください。1人で問題を抱え込まないでください。困ったら私にメッセージしてください。どんなゲーム実況、どんなプラットフォームでもいいです。普段から、そういう相談を受け付けています。そんな風に追い込まれた人に対して、これまで何人も話をしてきました。気持ちの問題が1番大事だと思っています。

近藤:私は臨床心理学を勉強しているので、この分野に興味があります。以前、落合先生とお話した時に、eスポーツには専属のカウンセラーや臨床心理士がいるチームがあると伺いました。ゲーム実況にも、そうした人達がいてもいいのかなと思うんですが、たとえばプラットフォーマーがそうしたサービスを用意するなどは難しいんでしょうか?

中村:それは興味深いですね。なぜそうしたチームはメンタルケアをする人を雇ったのでしょうか? 選手側の要望だったのでしょうか? それともチーム側がメリットを感じて雇ったのでしょうか?

落合:私が直接チームオーナーに伺ったわけではないので、あくまで憶測ですが、基本的にはチームの要請だと思います。選手個人は自分のメンタルがどれぐらい病んでいるか、なかなかわかりませんよね。また、選手には若年層が多いので、自分のメンタルの重要性について、あまり理解していない場合も多いと思います。そこである時期に、チームがパターナリスティックに臨床心理士などを雇って、選手に対して若者特有の苛立ちであるとか、アンガーマネジメントなどの指導を始めたチームが出てきたと理解しています。

中村:その議論で言えば、世界的に有名なストリーマーは、eスポーツチームに所属していることが多いんですね。そのためプラットフォーム側が臨床心理士などを用意しなくても、身近にいるので問題になりにくいのだと思います。ただ今後はそうしたストリーマー達の中から、独立してやっていく人が増えていくのではないかなと思います。脱事務所現象というか、脱チーム現象というか。5年ぐらい経ったらそうなってくるのかなと思うんです。そうなるとチーム側ではなく、プラットフォーム側がそうしたサービスを強化していく可能性があるかもしれませんね。

近藤:プラットフォーム側がゲーム実況者のメンタルケアのサービスを提供することに対して、何か法律的な懸念点はあるのでしょうか?

落合:新しい議論なので、すぐに回答が出なくて恐縮なんですけれども、法律的な懸念点はあまり想像がつきません。もっともeスポーツチームに所属する選手は、法律上労働者には当たらないと考えられるものの、労働者に近い立場にはあるので、原則としてチーム側が労働環境の安全性や衛生面に責任を持つ必要があります。そして、チームを離れると、多くの場合、ストリーマーは個人事業主になるので、自分のメンタルは自分で維持する必要があるのではないでしょうか。プラットフォーマー側に、ストリーマーのメンタルケアをサポートすることを当然の権利として要求するのは、少し違和感があります。

ただ、プラットフォーム側からしても、著名なゲーム実況者がメンタルを病んで次々に倒れてしまうと、困ってしまいますよね。また、プラットフォーム側と配信者側で、やはりパワーバランスが異なるという点はありますので、お互いの利害が一致した段階で、プラットフォーム側が相談窓口を設けるなど、互助的な制度が生まれていくと、非常にいいかなと思います。法律的に禁止されたり、強制されたりする話ではないと思います。

石川:私は以前、ニコニコ動画の歌い手さんにインタビュー調査中、「疲れたらどうしますか?」「全然数字が伸びなかったらどうしますか?」という質問をしたことがあります。その時に著名な歌い手さんの多くが「やり続けた方が良い」と回答していました。もっとも、そこにはライブ配信ではなく、動画だからという特性があったかもしれません。ともあれ、数字が上がらなくても続けていれば、どこかでチャンスが回ってくるかもしれないし、もし本当に才能があれば、他の歌い手さんからコラボの依頼が来るはずなので、そこでブレイクするかもしれないと。つまりコミュニティによるサポートですよね。ゲーム実況者もそうした側面があるのではないかと思います。一人で抱え込むよりも、コミュニティに頼ることも考えた方がいいと思います。それが日本のコラボ文化の良さではないでしょうか。

近藤:私も配信を15年くらい続けていて、いろいろなことがありました。だからこそコミュニティに頼るだとか、休んでもなんとかなるみたいな話をいただけて、良かったと思いました。今だからこそ救いの一つになるかもしれませんね。

各自の立場からみたゲーム実況の課題

近藤:最後に「各自の専門分野からみるゲーム実況における課題について」、お伺いしたいなと思います。ちなみに、この質問は落合先生からいただきました。

落合:私は法律家なので、法的な面以外の課題が見えにくい環境にあります。今日もゲーム実況者のケアなどの課題があることを知り、勉強になりました。同じように先生方の専門的な観点から、ゲーム実況の課題について聞かせてもらえればと思います。そのうえで法律的な課題でいえば、著作権に尽きるかと思います。現状は先人達が歩んできた獣道がゲームメーカーによって追認されているような状況で、理論的に整理されたものではありませんし、この点についてロジカルに整理した研究者や学者もいらっしゃらないと認識しております。そこで一人の法律家として、少しでもそこにメスを入れられればと思い、議論に参加させていただきました。

実際、ゲーム実況の著作権を巡る問題がクリアになれば、もっとゲーム実況が流行ると思っています。『エルデンリング』の問題もありましたが、今はまだ、グレーゾーンという言葉だけが1人歩きしている状況なんですね。ただ、それって万引きをしても見つからなければOKといっているのに近くて、著作権者であるゲームメーカーが明確に許諾していない限り、違法であることには間違いはありません。そこに対して議論する余地は、私はないと思っています。だからこそ、白黒の基準をはっきりさせてあげないと、ゲーム実況者も困るし、ゲーム会社も困るんじゃないかなと。そこで、私として、ロジカルに結論が出せる部分があるのであれば、それを提示して、どこまでがセーフでどこまでがアウトなのか、ボーダーラインをより明確にできればいいと考えています。確かに、各ゲームメーカーが発表したガイドラインで、少しは明確になった部分もありますが、その明度を上げていきたいと思っています。

もう一つの課題として、CEDECでも発表させていただいた通り、ゲーム実況者側の権利が不明確な点があります。自分のゲーム実況動画に対するゲーム実況者の権利については、まだまだ議論が尽くされていません。今後いろいろな方と議論しながら、ロジカルな結論が出せればいいのではかと思っています。

石川:私の研究テーマはメディア論的な視点からみた文化研究です。具体的にはゲーム実況におけるメディアの生態系をあきらかにすることですね。著作権問題もその中に包含されます。インフラ、プラットフォーム、ステークホルダー、ゲーム実況者、コミュニティなどの関係性を、もっと明らかにしないといけないなと思っています。ゲーム実況という現象や文化については、すでに認知が進んでいると思います。その中身をあきらかにしていくことが、これからの課題だと思うんですね。

そのうえで、最近ではゲーム実況が職業か否かという点に付随して、いくつかの疑問が出てきています。収入をどう得るのかとか、生活できるのかとか、子供が将来ゲーム実況者になりたいといった時、親はどう答えるのかとか。隣接分野としてコミケがありますよね。第一回目のコミケ開催は1975年で、相応の歴史があります。そこから現在に至るまで、漫画家がいっぱい生まれて、今の形になりました。ゲーム実況もコミケみたいな感じで育っていって、そこから色々な職業が生まれてくるのか否か、今後も注目していきたいと思います。

中村:一番気になるのは数字主義のまん延と、それによるオーセンティシティの消失です。今は見てもらえるなら何でもいいという考え方がまん延していますよね。この状態は、個人的には「ゲーマーの死」だと思っています。自分が好きなゲームかどうかではなく、単に数字が伸びるかどうか、自分の視聴者が求めているかどうか、それだけしか考えていないゲーム実況者が増えてしまいました。「私にも責任の一端があるだろう」と思われる方がいるかもしれませんが、自分としてはこうした風潮を破壊したいんです。人は自分が心の底から好きなゲームを実況するべきで、そうでなければゲーム実況は認められるべきではないとさえ思っています。それに対して、皆が数字を求めすぎたがゆえに、オーセンティシティがなくなった。これが現代の課題だと思っています。

特にエビデンスはないんですけど、ゲーマーコミュニティの中心は、昔は競技シーンだったと思います。Twitchで人気だったチャンネルをまとめたタイムラプス動画を見ると、昔は大会の動画チャンネルばっかりなんですよ。ただ、これが最近では個人ストリーマーが強くて、ゲーマーの人気が大会からストリーマーに移っています。それ自体は悪いことじゃないんですが、結果として文化の分断が起きたとも思っています。特定のゲーム実況者のファンだからチャンネルを見ることはあっても、チャンネルを横断して楽しむ人が減ってしまった。その結果、競技シーンに人が集まらないといった現象も見られます。まとめると数字主義の蔓延とオーセンティシティの消失が課題ですね。

近藤:なるほど、ありがとうございます、というところで、気がついたらあっという間に予定していた時間になりました。皆さん90分間、本当にありがとうございました。特に各自の専門分野から見るゲーム実況における課題では、大変ホットなテーマがたくさん出てきました。もしも次回があるのであれば、ぜひ続けて議論していきたいですし、多くの方から次回もやって欲しいという声がもらえるように、ここで締めたいなと思います(笑)。皆さん、今日は本当にどうもありがとうございました。