投稿日:2015年3月16日 / 更新日:2016年3月2日


○日本デジタルゲーム学会賞:

坂元 章(さかもと あきら)氏

(現職 お茶の水女子大学 人間文化創成科学研究科 研究院 教授)

 受賞理由:

 坂元章氏は、長年「メディアと人との関わり」を研究課題としつつ「メディア心理学」の構築を目指した多くの研究業績を積み上げている。中でもテレビゲームに関わる心理学的諸研究、子どもへの影響、情報リテラシーやメディア・リテラシーとの関わりについての諸研究は、我が国において先駆的なものであるのみならず、その方法論的な厳密さやメディア論的なフレームワークの体系性において諸外国の同分野の諸研究と比肩する水準において継続されており、我が国におけるデジタルゲーム研究の重要な一分野を構築しえたと評価されるべき内容となっている。これらの諸研究は文科省科研費や科学技術融合振興財団の助成など、多数の競争的資金を得て遂行されており、多くの学術論文、学会発表、学術報告書はもちろんであるが、それのみならず多数の学術書(単行本)としても結実しており、アカデミシャン以外の多くの人々に対して、デジタルゲームが人間の諸活動にもたらす影響や課題をわかりやすく解説、啓蒙していることも高く評価されるべきである。また、坂元氏は、本学会の創設時より理事として学会組織化に尽力され、2008年より2014年3月まで副会長を務められた。特に、創設時から学会発展のための最大の課題であった学会誌「デジタルゲーム学研究」の編集体制の整備に尽力され、年間2冊ペースでの論文募集、査読、編集の体制の確立に格段の貢献をなされたことはとりわけ高く評価されるべきである。これらのことから、坂元氏は、学会運営に多大な貢献をしてこられたことに加えて、研究者としての数々の研究成果、大学における若手研究者の指導育成などを通じて、デジタルゲーム学の発展に大きく寄与されたものと認められ、日本デジタルゲーム学会賞を授与することとする。

 

源田 悦夫(げんだ えつお)氏

(現職 九州大学 芸術工学研究院 教授)

受賞理由:

 源田悦夫氏は、CG、メディアアートなどのメディア芸術分野において、長きにわたって先端的な研究を行い多数の業績を示してこられた。とりわけ、コンピュータグラフィックスによる表現性および実体感のある仮想身体の生成方法の確立と、形態情報位置情報、キネティックス、生体情報等によって生成される仮想身体の各種分野への適応に関する一連の研究は、多様なデバイスをトランスメディアする方向で発展しているデジタルゲーム制作における芸術学的、情報工学的な基盤となる研究であり、芸術と工学を横断したゲーム分野の学術研究を推し進めたものとして高く評価されるものである。さらに、福岡市の地元ゲーム企業および行政との産学官連携によるゲーム産業の振興政策の推進に関わり、「福岡ゲーム産業振興機構」の設立など国内において他に類を見ないゲーム分野での産学官連携事業を中心となって進めてこられたことも、ゲーム研究者とゲーム制作者の協同を指向する本学会の性格を踏まえた場合、学会の今後の方向性において非常に有意義な活動として特筆すべきである。また、2008年より本学会理事、2014年より同副会長を務め、九州大学において開催された2012年次大会の実行委員長として同大会を成功させるため尽力された。これらのことから、源田氏は、学会運営に多大な貢献をしてこられたことに加えて、研究者としての数々の研究成果、大学における若手研究者の指導育成などを通じて、デジタルゲーム学の発展に大きく寄与されたものと認められ、日本デジタルゲーム学会賞を授与することとする。

 

 

○日本デジタルゲーム学会若手奨励賞:

藤原 正仁 氏(専修大学 ネットワーク情報学部 准教授)

受賞理由:

 藤原氏は、長年、一貫してゲーム開発者のキャリアについて研究してきた。ゲーム開発者のキャリアを包括的に調査した結果はこれまでになく、ゲーム研究にとっても、ゲーム産業にとっても大きな影響力を持ち続けている。特に、毎年CESAと協力して大規模なアンケートを実施し、経済状況や、それにまつわるゲーム開発者の生活の質(Quality of Life)の問題について調査を行いゲーム産業にフィードバックしており、ゲーム産業と積極的に関わりを持ちつつ学究を続ける態度、そしてその研究結果は、ゲーム産業にとっても貴重なものであり、また強く良い影響力を持つものである。また、DiGRA JAPAN の創設期のメンバーであり、氏の継続的な努力によって本学会はまだ微弱であった頃より求心力を持ちはじめ、現在の一定の形を得るに至った。その過程でゲーム開発者とつながり、産業と学会の架け橋ともなった。以上の理由を持って、本学会の若手奨励賞を授与するにふさわしい受賞者であると判断し授与することとする。

 

福田 一史 氏(立命館大学グローバル・イノベーション研究機構 専門研究員)

受賞理由:

 福田一史氏は、ゲーム研究に関する研究や日本デジタルゲーム学会運営に関して多大な貢献がある。福田氏はゲーム産業におけるイノベーションやコンテンツのアーカイブ化といったテーマにおいて、まだ掘り起こされていないゲーム分野における知見を蓄積してきており、ゲーム研究としての学術的発展への寄与が認められるとともに、多数の学術誌論文、学会発表などを通じた精力的な成果発表を通じて今後の研究活動に対しても大きな期待を持たれている。また、本学会において2006年の第1期体制から学生理事として運営業務を支え続けており、2012年の第4期体制からは事務局長として経理および理事会総務に至るまで事務総括者として福田氏の貢献は特筆に値するものであるとともに、本学会の継続的な発展の基礎となる事務フローの整備、事務体制の確立に格段の寄与があったと認められるものである。以上の理由を持って、本学会の若手奨励賞を授与するにふさわしい受賞者であると判断し授与することとする。

 

 

○日本デジタルゲーム学会学生大会奨励賞:

木村 知宏 氏(東京大学大学院 学際情報学府)

タイトル:「ゲームプレイの熟達が覚醒感に与える影響」

推薦理由:

 本研究ではデジタルゲームがプレイヤーの感情経験とストレス反応にどのような影響をもたらすかについて検証を行っている。分析指標として主観指標と生理的指標二つの観点から考察を行っている点、被験者群についても対象ゲームのプレイ経験を基に比較を行った点などがユニークであり、結果も十分に示されている。難点を挙げれば、そもそもこの分析を行う意味について十分な考察がなされていないこと、分析手法に関してその妥当性が検討されていないことが指摘される。今後、研究結果を踏まえた上で以下の項目をより深掘ることが望ましい。

・研究結果がゲーム開発と分析においてどのように貢献できるかの考察

・分析手法(BAQとα‐アミラーゼの計測)の妥当性の検証

・熟練度の高さとストレスを感じる原因の関連性の検証

・「素早い反応を必要とするゲーム」の定義、及び分析結果が実験に使用したゲーム

 特有のものであるかの検証

また当該分野に不慣れな聴衆に向けてより分かりやすい記述が必要であろう。

(共著者) なし

 

林 志修 氏(東京大学大学院 学際情報学府)

タイトル:「向社会的ゲームの影響に関する実証的研究」

推薦理由:

 前提となる背景や理論の紹介→問題定義→評価実験→考察、という科学的な研究プロセスに基づいた研究である点が評価できる。豊富な文献に基づいて研究背景を記載している点、文中で利用されている研究用語がきちんと定義されているため初めて読む人にもわかりやすい点、初めにリサーチクエスチョンを明確化している点も研究の骨格がよく記述されている。研究背景部分では入念な文献調査が行われていることは理解できたが、考察部分に関しては筆者の予想レベルで議論が展開されている印象で、「なぜこのような結果になったのか」のある程度の裏付けとなる理論がなかったのが残念であり今後の課題である。考察部分を強化すると、より研究としての完成度が上がると評価するものである。

 (共著者)馬場 章(東京大学大学院情報学環)

 

以上