投稿日:2018年5月9日 / 更新日:2018年5月9日


芝浦工業大学の小山友介です。
今年度(正確には3月24日~翌年3月23日)は在外研究(Sabbatical)と言うことで、アールト大学(Aalto University)の訪問研究員(Visiting Researcher)としてフィンランドのヘルシンキに来ています。


写真1 メーデー前日で盛り上がるヘルシンキ大聖堂前(4月30日)

これから何回か、こちらでのゲーム研究状況やゲームシーンをご紹介出来ればと思います。

特に発表などはしていませんが、こちらに来てから、3つのイベントに参加してきました。

4月10日 Helsinki Hub April seminar + gathering (IGDA Finland)
4月12日 Digi and Experience Platform events: Game and Gamification (Aalto Univeristy)
4月24日,25日 The 14th Game Research Lab Spring Seminar

いくつか、興味深かった内容や印象についてお話ししようと思います。

1)IGDAフィンランドのセミナー(4月10日)
https://www.igda.fi/new-events/2018/helsinki-hub-april-gathering

Appflyer(https://www.appsflyer.com/jp/)の方がアプリのアクセス解析によって得られた傾向について色々と話されていました(かなり詳細な数字も話されていましたが、IGDAフィンランドのページでも詳細は出ていませんのでこちらでも書くことは自粛します)。

興味深かったのは、ゲームアプリのインストールのされ方について、近年はOrganicなインストール(ユーザーが自主的にインストールする)の割合が増えていて、Non-Organicなインストール(他のアプリでインセンティブをもらうためなど、自主的でないインストール)の割合が増えていることと、Fraudアプリ(ユーザーにわからないように詐欺・不正を行うアプリ)が問題となってきている、と言うことでした。

発表の内容・水準は日本での研究会と大きな違いは無かったですが、会場がナイトクラブだったこともあってか、セミナー後の飲み会(gathering)が100人規模で盛大に行われていたのが印象的です。

写真2:セミナーの様子

 写真3:Gatheringの様子

2)アールト大学のイベント(4月12日)
http://digi.aalto.fi/en/games_and_gamification/
このイベントは、フィンランド内でゲームに関する研究を行っている各部門がその内容を一般向けに紹介する、と言う形でした。本格的な産学連携を行っているところから、まだまだ始まったばかりと思われるところまでさまざまでしたが、大まかに言うと「理高文低」といった形で、そのあたりは日本と変わりません。

現状として最も成果を上げていると感じたのはゲーミフィケーションの部門で、いくつか大企業と組んで社会実験を行い、論文化が進んでいる状況でした(スライドは未公開ですが、いくつかの成果については、発表者のサイトである http://juhohamari.com/ で見ることが出来ます)。

ゲームデザインやAIについての発表も興味深いものでしたが、「日本でも人材と予算があれば同水準の発表は見れそう。もしかしたら、私が行ったことが無い研究室で同水準のものがあるかもしれない」と思えるぐらいでした。とは言え、世界の大学ランキングで上位にある大学で(アールト大学は2018年のTimes Higher Educationのランキングで190位。日本でアールト大学よりランキングで上位なのは東大と京大のみ)ゲーム開発者教育が行われている、と言う現状は日本から来るとうらやましい限りでした。

もう一つ興味深かったのは、ビジネススクールの教員が学生への指導内容を話し、そこの学生が修士論文の結果を照会していたのですが(スライドは http://digi.aalto.fi/en/midcom-serveattachmentguid-1e83f0df5756cb03f0d11e8b176bb8fb19c7f777f77/mihailova_irina_public_en.pdf)、先生(Virpi Tuunainenさん)が「ゲームなんてちゃんと研究する意味あるのって言われ続けてました」とおっしゃってました。このあたりは日本と差が無いのかもしれません。

写真4 アールト大学

3)The 14th Game Research Lab Spring Seminar(4月25日、26日)
https://makinggamesseminar.wordpress.com/

タンペレ大学にあるゲーム研究拠点(Frans Mäyrä教授主宰)が毎年行っているセミナーで、ヨーロッパ各地から社会科学・人文科学のアプローチでゲーム研究を行っている大学院生~若手研究者が発表していました。私も申し込んでいたのですが残念ながらRejectされていたので発表できませんでした。年齢制限に引っかかったのかもしれません(苦笑)。

1発表は10分程度、発表水準は玉石混淆で、修士課程を終えたばかりで「これからこういった研究をしたい」という構想段階の発表から、「いくつか研究を論文化させており、最後の博士論文に向けてそとで武者修行」という高水準な発表までさまざまでした。

興味深かったのは、Free to Playゲームに関する発表が2つあったのですが、その両方で”Gacha”と言う言葉がナチュラルに出て、聞いている人も特に違和感なく聞いていたことです。実は、4月10日のIGDAフィンランドのセミナーでも(先述の箇所では紹介していない)2人目の発表者からも”Gacha”と言う言葉が出ています。ゲーム開発者、研究者の間では”Gacha”と言う単語は当たり前のように浸透しているようです。

もう一つ興味深かったのは、私のアールト大学での受け入れ教員となっていただいているMiikka Lehtonenn氏が発表者の1人となっている発表です。”Coopetition in the Finnish Game Industry A Longitudinal Qualitative Study”というタイトルで、フィンランドのゲーム開発者コミュニティの中で交流が非常に活発である,と言う話をされ、フロアと活発に議論がなされていました。一つの議論の争点が「他の国の開発者コミュニティと比べてどうなのか」だったのですが、ある方が「米国資本の元で開発している会社にヒアリングに行ったことがあるけど、そこはもっとクローズだった。フィンランドではNDA(機密保持契約)の縛りが相当緩いのでは無いか」と言うコメントを印象に残っています。

日本デジタルゲーム学会の発表を見てもわかるように、日本では社会科学・人文科学でのアプローチによる研究はまだ決して多くはありません。院生だけで2日分のセッションの枠が埋まる、そこで研究者がともに議論できる、というのは非常にうらやましい光景でした。

なお、会場はタンペレにあるゲーム博物館の中のセミナールームで、コーヒーブレイクの間に中の見学が出来ました。


写真5 セミナーの様子


写真6 ゲーム博物館

4)おまけ:Helsinki Game Music Festival(5月5日)
https://gameharmony.com/fi/konsertit/hgmf/

ヘルシンキで行われたゲーム音楽のみのコンサートです。フィンランドのグループだけで無く、オランダと日本からもゲスト演奏者を呼んで行われた本格的なイベントでした。

日本からのゲスト演奏者はYoutubeやニコニコ動画に積極的に楽曲をアップロードしているグループであるMeine Meinung(http://meimei-music.com/)さんです。実は、イベント前日である5月4日に、ヘルシンキの中心街を歩いていて偶然Meine Meinungの皆さんが路上演奏の準備をしているところを見かけてイベントを知りました。

実際のコンサートには老若男女入り交じった4~500人程度のゲームファンが足を運んでおり、演奏を熱心に聞いていました。演奏された楽曲の大半が日本のゲームの曲で、Final Fantasy,Chrono Trigger,Mega Man(日本名ロックマン)の曲は複数の演奏者から選曲されていました。

写真7 コンサート開始前の様子

このコンサートに来てつくづく感じたのは、「フィンランドに、ゲームが根付いている」と言うことでした。ポケモンGOのスペシャルレイドバトルが4月15日にあったのですが、その時にも街のあちこちで人が集まってみんなで闘っている様子が見られました。失敗したときはみんなそそくさと消えていくのですが、上手くボスを倒せたときはみんな「Kiitos!(ありがとう!)」と言いあって去って行く様子がほほえましくもありました。

写真8 ポケモンGOのスペシャルレイドのために集まる人々(4月15日)

多くのゲームが遊ばれてきた歴史があることが、現在のフィンランドのゲーム産業が好調である前提条件として効いているような気がします。そして、そのベースの部分に、日本のゲームがしっかりと根付いているのが嬉しくもありました。