講演日2022年2月12日11:30~13:00
講演者:瀬名秀明氏 (作家)
指定討論者:浅田稔氏 (大阪国際工科専門職大学)
ZoomウェビナーURL
https://zoom.us/j/98711616835?pwd=cUh0T25RUEk4c3hWR2tEMk5iTloxUT09
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の世界的大流行(パンデミック)は発生から2年以上が経過し、全世界で561万人以上が亡くなり(2022年1月現在)、日本でも深刻な社会問題となっている。このような巨大な課題に対しては、感染症疫学のみならず政治、経済、医療、社会心理学など多くの専門知が結集して総合知を実現し、危機を乗り越えてゆくことが必要だが、私たち人類はいまなおどのようにすれば総合知をうまく発揮できるのか、その方法論を見出せていない。
本講演ではゲームというキーワードを出発点としてパンデミックへの貢献を探ってみる。これまでもパンデミックを題材としたボードゲーム、カードゲーム、デジタルゲームはあったが、昨今は行動経済学でも、社会の習慣を動かしゲームのルールそのものを変えてゆく「コーディネーション」や、原因と結果の時間差の影響を俯瞰的に見極め、短期的視野と長期的視野を使い分けて、プレイヤーそのものも増やして協力関係を築く方策、人間は総合的判断が苦手であることを承知した上でプレイヤーの行動の背景を推測する認知心理学的側面の重要性、などが入門書でも説かれている。これらはすべて総合知の達成に不可欠である。
演者はゲーム理論や行動経済学について素人だが、作家であり、想像力の専門家である。近年、映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『ハッピー・デス・デイ』のようにエッジの立ったループもののサバイバル物語が人気を得ている。過去へ戻った人間はJ・F・ケネディ暗殺を阻止できるかという物語もある。もし何かの専門家であるあなたが、WHOがパンデミック宣言を出した2020年3月11日の朝に戻れたら、あなたは専門知を駆使してどのような貢献ができるだろうか。たとえ個人が過去へループしても、天災である地震や津波の発生は抑えられないだろうが、それによる二次的原発被害はひょっとすると最小限に食い止められるかもしれない。パンデミック抑制はJ・F・ケネディ暗殺阻止よりはおそらく難しい。だからこそゲーム研究に関わる皆様の専門知が、今後またいつか来る新たなパンデミックに対してどのような貢献ができ、それがいかにゲーム開発や研究に活かせるのか、作家的想像力とともに問題提起をしてみたい。