投稿日:2023年11月10日 / 更新日:2023年11月10日
主催 日本デジタルゲーム学会 広報委員会
登壇者
天野圭二氏(星城大学)
井上明人氏(立命館大学)
中村彰憲氏(立命館大学)
ライター 小野憲史
井上:それでは時間になりましたので、ゲームスタディーインタビューのオンラインイベントを始めたいと思います。今日は2013年8月18日~19日に開催される学会「Replaying Japan」について、関係者の皆さんにご登壇いただき、前夜祭という形で座談会を進めて参ります。Replaying Japanは立命館大学ゲーム研究センターが主催し、DiGRA JAPAN も共催する学会で、今回で10回目になります。そこで今日は大会の広報も兼ねて、Replaying Japanに初期から関わられている立命館大学の中村彰憲先生、今回のプログラム委員長をつとめられる成城大学の天野圭司先生、そして論文誌の編集を行っている立命館大学の井上明人の三人で、話を進めてまいります。では天野先生、トップバッターということで、よろしくお願いします。
Replaying Japan2023について
天野:ご紹介にあずかりました天野です。名古屋でReplaying Japanを開催したいというお話があり、私が非常勤をしている名古屋造形大学からホスト校の希望がありましたので、今回の開催となりました。日本では立命館大学以外で、初めて開催される大会となります。名古屋造形大学は名古屋城のすぐ近くにある、交通の便が非常に良い大学で、外壁が格子状になっていて、非常に凝ったデザインになっています。最初はここで『平安京エイリアン』を遊ぼうという話も出ていました。準備が追いつかず、実現はできませんでしたが、ぜひ現地でご確認いただければと思います。
今回の大会テーマは「地域社会およびデジタルゲームコミュニティと日本のゲーム」です。ゲームを取り巻くコミュニティには、地域社会に代表される物理的な空間や、SNSやオンラインゲームなどのデジタル空間にとどまらず、もっと広く検討・研究すべきコミュニティが存在します。たとえば同人ゲームやインディーゲームのディベロッパーであったり、いわゆるマイノリティに属する人々などを含む、非常に多様なプレイヤーであったり。そうした人々もゲームコミュニティの一員であり、研究対象となるということから、このようなテーマが設定されました。
基調講演では3名の方にご登壇いただきます。ゲームコミュニティの多様性という意味から、バラエティに富む人選となりました。
まずゲーム『グノーシア』『メゾン・ド・魔王』で知られる、インディーゲーム開発集団、プチポット代表の川勝徹さんです。19日にご登壇いただく予定です。20日は、児童精神科医の関正樹先生にご登壇いただきます。メンタルに課題を抱えられているお子さんなども含めて、私たちがどういうふうにゲームと関わっていくのかというお話をいただきます。同じく20日には大トリとして、雑誌『ファミ通』で知られる浜村弘一さんにご登壇いただきます。こちらは産業界からの視点が主になろうかと思います。このように、今回はいわゆる「ゲーム研究者」ではない方がアサインされている点が見どころの一つかなと思います。
セッションでは基調講演以外に39本の発表が予定されています。フリーペーパーが22本、ポスターセッションが8本、ライトニングトークが8本、パネルセッションが1本です。これはReplaying Japanの傾向でもあるのですが、人文社会学系の研究が比較的多くなっています。ただし、ゲーム開発やゲームデザイン、理工学系、情報学系の先生方の発表もあります。このように人文社会科学系の発表が比較的多い大会ではありますが、それ以外の学問分野の方にも広く門戸を開いています。大会情報は大会のWebページに掲載されていて、大会プログラムや予稿集も公開されています。
他に本学会は設立当初からカナダのアルバータ大学にある高円宮日本教育・研究センターにご支援いただいています。同センターでは、大学生や大学院生の発表を対象としたエッセイコンテストが実施されます。これは優れた論文を書いた学生に対して、1000カナダドル、または500カナダドルが進呈されるというものです。ある種の奨学金という位置づけになっています。また、今年から新たに公益財団法人中山隼雄科学技術文化財団にスポンサードをいただいています。
本学会は国際学会ですので、毎回世界各地から参加者がみられます。今年度は11カ国からエントリーがありました。インドネシア出身で、オーストラリアの大学で研究されていたり、チェコ出身で、フィンランドの大学で学ばれていたりと、国際的に活動されている研究者や大学院生がエントリーされています。先ほどチェックしたところ、90名ほどの事前登録がありました。直前まで参加登録を受け付けておりますので、これからでも間に合います。参加費は無料ですので、ぜひご参加いただければと思います。
他に2日目の夜には、レセプションパーティーがあり、発表者以外の方でもご参加いただけます。こちらは参加者の実費となります。
最後に本学会の関連団体や大学のロゴを表示させていただきました。名古屋まで、なかなか来られる機会は無いかもしれませんが、せっかくの機会ですので、皆様とお会いできることを楽しみにしております。では私からのプレゼンテーションは、ここまでとさせていただきます。ありがとうございました。
学会誌について
井上:私の方からは、学会で出している学会誌(ジャーナル)のお話をさせていただきます。学会がスタートしたのが2013年で、学会誌を初めて出したのが2018年です。そこから毎年1号ずつ出版しています。大会は毎年8月半ばで、投稿締切は3月です。これに対してジャーナルの投稿締切は9月後半で、出版が3月末となります。
2018年の3月に準備号を出版しました。亡くなられた上村雅之先生にもご寄稿いただいています。準備号で掲載された論文は日本語と英語の割合が半々となっています。日本語・英語の割合は号によって違い、ほぼ英語で書かれている年もあります。勘違いされていることが多いのですが、論文執筆は日本語でもOKです。
先ほど天野先生からもありましたが、ジャーナルも人文系の論文が多めです。ただし、人文系の研究に限定しているわけではありません。できるだけ多くの人にご投稿いただければ幸いです。
続いて、よくいただく質問にご回答します。
まず「ゲーム研究ではあるが、そこまで『日本』に焦点を当てた研究ではない。大丈夫か?」というものです。実は学会として、この点について明確なポリシーを打ち出しているわけではありません。過去の投稿を見ていただければ、だいたい分かると思いますが、ビデオゲームに関わる研究であればOKとなっています。
次に「大会で発表した研究でなければ、ジャーナルに掲載されないのか?」というものです。大会で発表後、参加者からのコメントなどを受けてブラッシュアップされたものが、ジャーナルに投稿されるのが理想ではあります。ただし、発表は義務ではありません。直接投稿してもらえればOKです。
続いて「締切後に論文を投稿して良いか?」という質問です。今年度の締め切りは9月20日に設定させていただいております。これは基本どこでも同じだと思われますが、対応が難しいということで、ご了承ください。3月末に出版するためには、9月後半の締切でもカツカツとなっております。締切の延期も同様で、強い気持ちで「延期なし」ということで進めていこうと思います。
論文の投稿料は無料です。言語も日本語で結構です。タイトルと概要は英語でも書いていただく必要がありますが、本文は日本語で書いていただいて大丈夫です。英文の校正についてもお問い合わせをいただくことがありますが、こちらもご自身で責任を持っていただければと思います。
最後に投稿規定を良くお読みいただいて、お守りください。また、論文のサンプルフォーマットをWord形式で配布しておりますので、ぜひご活用ください。
Replaying Japanの発足について
中村:立命館大学の中村です。DiGRA JAPAN のメンバーで、発起人の一人でもあり、立命館大学ゲーム研究センターにも在籍しています。Replaying Japanの発足から関わってきたので、その経緯について説明します。また、Replaying Japanの日本のゲーム研究者に対する役割についても解説させてください。
Replaying Japanの発足は、立命館大学に2009年、カナダのアルバータ大学からジェフリー・ロックウェル先生が来校されたことがきっかけでした。そこで先生のご専門である、デジタルヒューマニティに関する基調講演をしていただきました。その際に本学のアートリサーチセンターや、私が所属している映像学部やゲームラボにも来ていただきました。その時、日本でこんなに研究が進んでいたんだと、驚かれていらっしゃいました。
ジェフリー先生はデジタルヒューマニティの研究を続けられる中で、ビデオゲームはデジタルヒューマニティの中で一番成長が進んでるニューメディア領域であるため、しっかり研究したいと思われていたそうです。そこでサバティカルにあわせて約半年間、立命館大学に来ていただきました。それが2011年のことで、ちょうど立命館大学ゲーム研究センターの発足と同じタイミングでした。また、発足時には天野先生もいらっしゃっていたと伺っています。こんなふうにコミュニティがだんだん広がっていきました。
その後、ジェフリー先生から、ここまで日本のゲーム研究が盛りあがっているのであれば、ぜひ、アルバータ大学にお招きしたいとご提案をいただきました。そこで同大学の高円宮日本研究教育センターから予算を獲得し、我々も国際研究成果発表の予算をとりながら、2012年にReplaying JAPANの第零回的な位置づけで、1DAYシンポジウムをアルバータ大学で開催しました。そこでは、さまざまな先生方から、どういった研究をされているのか、話していただきました。我々もゲーム研究センターで研究を進めている教員が、自分の研究について話して、交流しました。
こうした形で、ゲームと教育工学だったり、ゲーム産業だったり、ジェフリー先生からはパチンコ産業について講演してもらったりしました。ジェフリー先生いわく、パチンコ産業はアメリカにはない、非常に日本的な産業なんだそうです。
シンポジウムの終了後は、Replaying Japanをどのように進めていくか、互いに議論を重ねながら、徐々に大会の回数を重ねていきました。その後、コロナ禍の直前まで、日本で3回開催することができました。日本では、すべて立命館大学で開催されています。一方で海外ではストロングミュージアムのある米ロチェスター大学だったり、イギリスのノッティンガム大学だったり、各地で開催しています。そうした形で学会を開催しながら、徐々に世界中にコミュニティが広がっていきました。
こちらが2013年の模様です。当初から産業とジャーナリズムとプレイヤーとアカデミックという、4領域についての研究発表が行われました。日本のゲームや日本の文化に関する研究が最初から組まれていました。基調講演では遠藤雅伸先生にご登壇いただきました。そのとき遠藤先生は、日本のゲームの特徴や、日本の文化に根ざしたゲーミフィケーションの話や、日本の知育玩具の発展とゲーミフィケーションの可能性などについて講演されました。後にご自身の博士論文の方に繋がるようなアイディアをこの段階で示されていましたね。
発表は英語で行なわれ、日本語で話される方に対しては、逐次通訳を入れつつ、国際的なコミュニケーションが進められました。実験的なゲームのデモプレイ、ゲームデザインと人文研究、メタバース、そしてゲーム保存が主なテーマでした。もっとも、当時はメタバースといっても、セカンドライフの議論が中心でしたね。ゲーム保存については、立命館大ゲーム研究センターの研究員が、保存活動の状況について発表しました。そんな風にコミュニティが成長しながら、徐々に学会が立ち上がっていったのが2013年となります。
次に日本で開催されたのが2015年です。ここでは産業という視点で、基調講演に坂口博信さん、それからモデレーターとして浜村弘一さんにも来ていただきました。ゲーム産業の成長について、開発者とメディアの双方の立場から、当事者の方々に語っていただきました。主に浜村さんからいろいろな質問を坂口さんに投げかけていただき、答えを聞き出すということをやりました。
このとき、今はDiGRAのプレジデントをされているハンナさんが参加されました。当時は香港のChinese DiGRAのプレジデントをされていましたね。ここからChinese DiGRAとDiGRA JAPANとの交流も進んでいきました。
遠隔での講演参加も実施されました。当時、立命館大学ゲーム研究センターで事務局長兼ディレクターをしていて、今は東京大学に移籍された吉田寛先生が、サバティカルで滞在されていたイギリスから、オンラインで参加されました。もっとも、Zoomではなく、Skypeを通してでしたね。こんな風に徐々に日本と海外を連結させながら、ハイブリッドで実施することを、既にこの段階で行っていました。
実験的ゲームのデモもより拡大し、複数のゲームが展示されました。ゲーム保存では、書籍『ファミコンとその時代』が出版されていたので、執筆者の上村先生などから、書籍の内容をふまえて、更なる議論が行われました。私もモデレーターとして参加いたしました。このようにゲーム業界の方々、ゲーム保存の方々、人文学的なゲームという、非常に多様な方々から基調講演をしていただき、大会としての広がりがみられました。
その後、大会は独ライプツィヒでも開催されました。この時は岩谷徹先生と遠藤先生、それからナムコでゲームサウンドをされていた小沢純子さんに登壇いただき、1980年代のナムコにおけるゲーム開発について話をしていただきました。その後、ストロングミュージアムのある米ロチェスターでの大会では、セガのジェネシスの立ち上げに携わった方をお招きしました。このように非常に多様な方を招きながら、ジャパニーズゲームカルチャーを対象に研究するという点をキーワードに、広がりをどんどん進めていきました。
こうした取り組みの集大成となったのが2019年でした。DiGRAの年次大会にあわせて、Replaying Japanも年次大会を京都で実施しました。さらにIEEE SeGAHの年次大会もあわせて「立命館ゲームウィーク」として開催しました。8月5日から11日まで非常に多様な分野から研究者コミュニティが集まりました。こうした中で日本のゲーム文化について研究されている海外の研究者が参加され、研究に非常に深みが生まれました。これが第3段階になります。
DiGRAでの基調講演の方々はこちらになります。サイトウ・アキヒロ先生はIEEE SeGAHの方で、ゲームニクスの実践例について話していただきました。DiGRAの年次大会が始まる前日に、IEEE SeGAHの年次大会が開催され、シリアスゲームの文脈で発表が行われたのです。Replaying Japanでは、また産業側の視点に戻りまして、日本のゲームの中で一大ジャンルと言われる歴史系ゲームで深く携わられている、コーエーテクモゲームスの早矢仕洋介氏に登壇いただきました。
このようにReplaying JAPANの方で、他の分野でカバーしていない部分をしっかりとフィーチャーして、日本のゲームとしての独自性をちゃんとアピールしました。これによって、より多くの人をお招きできるチャンスを提供できたと考えています。
展示の方でもゲーム保存の視点と、実験的ゲームの視点と、ゲーム研究がしっかりと混じり合って、一つのイベントになっていったことが、Replaying Japanの現在地を象徴してるんじゃないかなと感じています。
ということで、Replaying Japanの基本的な視点はDiGRAと重なっています。産官学を連携させて、ジャパニーズゲームカルチャーなり、ビデオゲームなりを見ていこうという視点です。一般的なデジタルゲーム学会ではゲームを対象にするんですが、ここでは特に日本のゲーム、日本のゲームカルチャーに興味がある世界中の人たちが集まっています。
もう一つ、Replaying JAPANの運営上、非常に重要な点として、初めて英語で発表するチャンスを日本の研究者や日本のデベロッパーに与える場にするということです。当初から非常に大きなミッションとして位置づけられていました。これには言語の壁があるという理由で、せっかく蓄積された知見が世界と共有されていなかった点について、ジェフリー先生が問題視されたというか、もったいないと思われた点がありました。そのため、こうした研究者に発表する場を与えた方がいいんじゃないかという点から発展していった経緯があります。開発者の方々で、英語が苦手だという人がいれば、DiGRA JAPANのメンバーで翻訳したり、逐次通訳でもいいので、翻訳すればいいんじゃないかという話もありました。気軽に参加できるチャンスを提供したということですね。
ということで大会では大学院生の発表も多いですし、実験的なゲームを開発したデベロッパーによるゲームデモのセッションもあります。あんまり普段は英語に接しない人でも、気軽に発表できる場を作っていこう、それに対するアシストをしていこうというところで、ここまで来ています。
このように多様なチャンスを与えるという視点でセッションが設定されています。実験的に新しいコンセプトを提供しようっていうところも非常にやりやすいですし。非常にフレンドリーな規模でもありますね。立命館や、アルバータ大学の高円宮日本研究教育センターをはじめとした、いろんなところから出資を得ているので、現在まで何とか参加発表については会費を取らずに実施できています。今後しばらくそのようなスタンスを続けていくんじゃないでしょうか。
今年度に限らず、来年度も実施する方向で動きますから、それに合わせて、ぜひご自身の研究などを共有いただければ嬉しいなと思います。以上、私の方の発表は終了させていただきます。
質疑応答
井上:まず、自分の方から簡単に質問させてください。先ほど中村先生から、Replaying Japanは英語で口頭発表をする入り口として良いというお話がありました。それ以外にも何か、本学会で発表するメリットはありますか? また、どういった方にお勧めしたいですか?
天野:私は2013年から2019年ぐらいまで、ずっとパチンコの研究をしていて、本学会に投稿を繰り返し、何とか採択していただいた経緯があります。実はそれまで日本の学会でパチンコの研究に関する論文を投稿する勇気がなかったんです。一方で意外と海外の研究者の方は、このテーマに興味があるということに、ジェフリー先生とお会いして、気づかされました。そこで自然と本学会に投稿するようになりました。
同じように、テーマが冒険的などの理由で投稿先に迷ったら、本学会を選択肢に入れてもらってもいいのかなと思います。発表内容を見ていると、特定のゲームタイトルについて、意外な切り口で発表してくる……そんな研究が、特に海外の研究者から見られます。あるゲームについて、文化や社会の側面から掘り下げていく……そうした研究に興味を持っている研究者が集まる場なんだと、強く思っています。
中村:私も同意見ですね。新しいアイディアや、まだ固まりきっていないテーマでも発表できたり、それをきっかけに意見交換ができたりします。海外の視点を得るという視点からも、非常にいいんじゃないかなと思います。
昨年、エッセイコンテストで優勝された、中山さんのNFTゲームに関する発表は好例でした。非常に新しい分野なのに、ちゃんと発表がアクセプトされて、評価されました。私も中国のメディアミックスの発表をイギリスで実施しました。かなり新しいものを先出しできる点は、メリットとして大きいかなと思います。
井上:僕もそこは感じるところです。国際学会の中でも発表の敷居が低いという点で、すごくいいですね。ネタとして固まりきっていないものを発表するという点でもいいですし。特に大学院生の方に、海外での発表に慣れてもらう場として、すごくいいと思います。コミュニティとしても、皆さんすごい温かいというか。一緒に議論をしていこうという雰囲気があるので、おすすめしたいですね。一方で、本学会ならではの大変な点もあると思うのですが、いかがでしょうか?
天野:発表者の視点でいえば、英語での発表が求められる点ですね。プレゼンテーションをするだけなら良いんですが、質疑応答がしんどいという話はよく聞きます。英語で質問されて、英語で答えなければいけないプレッシャーたるや、相当なものだと思います。それを軽減する手段として、例えばSNSを活用するなどして、口頭でのコミュニケーションではなくて、テキストベースで質疑応答ができるような仕組みがあれば、英語で発表する敷居が下がるだろうなと思っています。実はここ数年、ほぼReplaying Japanでしか発表していないので、逆に日本での学会発表をあまりやっていないため、ちょっと比べようがないなとも思っています。
中村:周りを見ているとかなり四苦八苦されていますね。特にデベロッパーの方などで、本当に初体験で、緊張されてる方も多いんですが、慣れの部分もありますよね。ある先生など、最初は自分が準備した原稿を読み上げるだけだったものが、何回か繰り返すうちに、コツが分かってきて、カジュアルに、楽しくセッションをされるようになったり。海外の人からすれば、日本の会社はどういう考え方でゲームを作っているのか、すごく興味があります。言葉の壁を乗り越えて、勇気を持ってプレゼンテーションしてもらえば、向こうの側から接してくると思うので。この壁を乗り越えることが大切だと思いますね。
天野:そういう意味では、井上さんが先ほどおっしゃったみたいに、コミュニティがとっても温かいというか、ディスカッションしやすいって言えばいいんですかね。そういった雰囲気があって、ちょっと他の学会ではあんまりないと思うような、柔らかさがある学会だと思うので、ぜひトライしていただきたいですね。
井上:僕もそう思いますね。英語での質疑応答では僕も緊張するんですが、毎年、意外と何とかなっていて。自分でも理由が良くわからなかったりするんですが。場数を踏まないと上手にならないと思うので、そういう意味でエントリー的な場という話がありましたが、そういう場として機能してるのは、とても重要なことだと思います。
中村:いずれにしてもアカデミックなキャリアをめざしていく上では、国際学会での発表が必要です。いずれ洗礼を受けるのであれば、Replaying Japanが一番だと思います。海外の方も一生懸命日本語を勉強して、大変だというのを実感してるので、お互い苦労を理解した上で聞いているから、非常に優しいと思います。
井上:海外の研究者について、若干フォローさせていただきます。基本的には日本研究や日本に関わる文脈でゲーム研究をされている人の割合が多い点が特徴です。そうした事情もあって、日本の研究者に対して非常に温かく対応していただける点があると思います。
会場からの質問
古市:先ほどReplaying Japanは初めて国際会議で発表する人にとって敷居が低くて、学生も最初に考えるといいんじゃないかという話がありました。そのとおりだと思います。ただ、学生が国際会議で発表する時、指導教員がサポートする姿はよく見かけますが、他の日本人参加者の方も、もっと積極的に日本人学生のサポートをしてあげるといいなと思います。厳しい質問も大切ですが、できれば学生を育てるような視点で、国際学会の発表機会を活用してもらえれば良いんじゃないでしょうか。
また、私はこれまで電気系や情報処理系の学会が中心で、しかも会社員の発表者を中心に聴講していたので、ゲーム系の学会の事情は良くわからないのですが、もっと海外の学会で発表されることをお勧めしたいです。同じ日本人同士、一緒に海外に出ていく機会を、もっと増やせるようになるといいなと思いました。質問ではなく、コメントでした。
井上:先ほどDiGRA JAPANとの違いについて話がありました。他にゲームの学会では、DiGRAをはじめ、Game and CultureやGame Studiesなど、いくつかあります。自分の方から、そちらとの違いみたいな話もさせていただきますね。
インターナショナルなゲーム研究コミュニティでは、日本よりも人文系が強いという傾向があります。Game Stydiesもそうですし、Game and Cultureもそうですね。哲学や、文化研究や、社会学などが強いというところです。特にReplaying Japanでは、日本に関わる文化研究をされている方が多くて、そこが他の国際学会、国際的な学会誌とちょっと違うかなという感じがしますね。
中村:確かに日本語でゲームのカルチュラル・スタディーズについて発表できる場は珍しいですね。例えばゲームのclose readingに関する投稿は、DiGRAでもそれほど多くありません。それがReplaying Japanでは可能ですし、それを高評価してくれる海外のレビューアーもいたりします。実際に、そういったclose readingを用いた論文投稿も採択されます。そうした点がReplaying Japanにおけるジャーナルの特徴かなと思います。今までどの学会に投稿したら良いんだろうと悩んでいる大学院生がいたら、チャンスの一つとして捉えてほしいですね。
天野:Replaying Japanでは実際に、close readingsでセッションが成立している年が多かったりします。僕自身もclose readingのペーパーを読むのが楽しみだったりしますし。そうした発表を聞く機会が多い点が、Replaying Japanの魅力として考えられるかなと思います。
その一方で今年に限らず、まだ国際共同研究が少ない気がします。国内の複数研究者でチームを組んで発表するのは比較的多いんですが、別の国の研究者が協力した発表をもう少し育ててほしいなというのが、個人的な願望でもあります。私自身もかつて、DiGRA JAPANの国際委員でしたので、そういう観点からも、日本のゲーム研究の国際化が進むといいと思いますし、自分も協力したいなと思っています。
他に日本にいる外国籍の研究者、大学院生、教員による発表が、今年でいえば39本中11本あります。そうした方々はDiGRA JAPANの会員になっていない可能性もあります。同じようにゲーム研究を日本でやっているものの、DiGRA JAPANではなかなかお目にかかれない研究を聞くことができる機会だろうなとも思います。
井上:ありがとうございます。日本に留学して勉強されたり、研究されたり、あるいはサバティカルなどで滞在されているゲーム系の研究者の方は、意外といらっしゃいます。ただ、そういった方々に実際にお会いできる機会は、実は少ないんですね。そういった中で、Replaying Japanは貴重な機会になっていますね。
古市:無料で大会が実施できている理由と、高円宮日本教育・研究センターの概要について教えてください。
天野:やはり、立命館大学のゲーム研究センターが主催していて、そこから一定の予算が出ている点が大きいかと思います。今回については、名古屋造形大学にお支払いする会場費を、中山財団にご支援いただけた点が大きかったですね。他はだいたい手弁当で運営されています。例えばEasyChairのような管理ツールで論文投稿を管理する例もみられますが、相応のお金がかかります。これに対してReplaying Japanでは、メールベースで投稿受付と査読の手配などを行っています。こうした点も運営費が抑えられている理由かなと思います。
小野:Replaying Japanの特徴として、実験的なゲームのデモ出展がある点が興味深く感じられました。この点について、もう少し詳しく教えてください。過去にはどういった作品がありましたか?
中村:投稿規定の中に「デモセッション」という項目が入っているので、そこで応募してもらえれば可能です。これはDiGRA JAPANでも可能なはずです。ただ、学会ですので、何か特定の視点が必要だと思います。ゲームデザイン的な新規性という点もあるでしょうし、ゲームの社会実装に対するアプローチだったり、最近だと生成AIやテキストマイニングなどを取り入れたものだったり、そういった視点が必要かなと思います。逆にそうした新規性・独創性のある視点があれば、かなり実験的なゲームでも、受け入れられる傾向にあります。
過去の作品であれば、学生たちのライフログをVR上に表現したゲームがありました。狭義の意味でゲームかといわれれば、かなり曖昧なところがありましたが、そうしたゲームのテクノロジーを、新しい方向性で活用するという点が認められて、発表につながりました。そういう意識を持ちながら、何かを作っていけば、間違いなく採択されると思います。
小野:SIGGRAPHにおけるEmergingTechnologyのような印象も受けました。そこに本学会ならではの要素、例えば日本文化みたいなものは必要なんでしょうか?
中村:日本文化的な要素や視点は必須ではありませんが、あるとさらに良いですよね。実際に、そうした視点を持ったデモも過去にありました。
小野:ありがとうございます。具体的にどういったものが採択されたか、過去の予稿集を見て確認してみます。
天野:今年でいえば「セッション8」がデモ・ポスターセッションですので、そちらをご覧になられると良いと思います。
田端:発表の中で取り上げられるゲームには、どのようなものがありますか? 『パックマン』など、レトロゲームが多いのでしょうか? それとも最近のタイトルも引用されるのでしょうか? Replaying Japan 2019では『スーパーマリオブラザーズと禅』という発表があり、印象に残っています。
天野:今年に関して言うと『ポケモン』シリーズや、『スプラトゥーン』といったタイトルの発表があります。他にライトニングトークでは『バトルフィールド1』や『メタルギアソリッド』シリーズなどが上がっています。毎年そういった形で具体的なタイトルに関する研究が見受けられます。時間がある時にリストにしてみようかなと思います。
田端:逆に抽象的なタイトルのセッションもありますか?
天野:今年でいうと一番最初の発表が、「JAPAN and Rise of National Game Studies」というセッションタイトルになっています。自分もちゃんと予稿を読み込んだわけではありませんが、かなり広いトピックに関する議論になるのかなという印象です。他に毎年出てくるわけではありませんが、映画、小説、漫画などに出てくるゲームの表象に関する研究もありますね。今年で言えば、映画『AKIRA』の中に出てくるアーケードゲームに関する研究発表などです。そうしたニッチなんだけど、ちょっと興味深い切り口の研究が見られる年もあります。
井上:自分がよく覚えているのは、2017年だったと思いますが、『タクティクスオウガ』についての研究発表がありました。旧ユーゴスラビアの民族紛争と『タクティクスオウガ』のストーリーの相似性に関する議論が行われていましたね。
田端:そうした研究では実際に、開発者に聞いてみたりされているのでしょうか?
井上:『タクティクスオウガ』に関しては、制作者の松野泰己さんが「旧ユーゴスラビア紛争を意識しています」という話を公表されていましたね。そこも含めて、具体的な対応について発表されていました。
田端:あるタイトルがどのように遊ばれてるかという発表も大事ですし、それと同時に、ある意味で「開発者に聞いて、答え合わせをした」という観点もあるかなと思います。ただ、個人的には疑問に感じるところもありまして。
井上:そこはReplaying Japanのみならず、文学研究全般の議論になるかと思いますが、「作者の意図」に関する議論は、文学研究あるいは美学の分野で過去100年くらいにわたって、いろいろな議論がありました。その結果、文学における批評理論では、作者の意図について論じる、いわゆる作者論みたいなものは、ちょっと難しいところがあるんじゃないかという議論が主流になってきています。20世紀の中盤から後半ぐらいにかけて、次第にそうなってきましたね。 一方で作者の意図を完全に無視していいのかというと、これはこれでまた議論のあるところです。詳しい議論は美学や文学の批評理論に関わる議論をご参照いただければと思います。
田端:いろいろな考え方があるのですね。
井上:そうですね。世間一般の「作者がこう考えていた」みたいな報道の量と比べると、文学や美学の世界では、作者そのものへのフォーカスっていうのは、もっと弱いというか。そこまで作者が重視されないことが多いのかな、と思いますね。
粟飯原:日本以外の国で今まで何回かReplaying Japanが開催されていると思いますが、どういった場所が多いのでしょうか?
中村:ゲーム保存やゲームスタディーズに関する中心的な場所が多いですね。2020年はベルギーのリエージュで開催されました。大学内でゲーム研究をされている複数の分野の研究者が集まり、リエージュゲームラボというグループが作られていました。そこが中心になって開催されましたね。本来は対面で開催される予定でしたが、コロナ禍でオンラインに移行しました。ただ、彼らが中心になって、非常に素晴らしい大会にしてくれました。
それ以外だと、2018年にナショナルビデオゲームミュージアムがあることで知られる英ノッティンガムで開催しました。ここは博物館を中心に産学連携が行われている場所です。2017年は米ロチェスターで開催された時は、世界最大級の遊戯/遊具博物館であるストロングミュージアムがありました。この施設も現地のロチェスター工科大学と連携していて、大学と博物館の共催で行われました。このようにゲーム保存を行っている施設と関係の深い大学が主催校として手を挙げてくれていて、そこで発表させていただく流れが出来ています。そうした大学の中に、カナダのアルバータ大学も加わっています。
粟飯原:そうした博物館に行くのはお勧めですか?
中村:はい、めちゃくちゃおすすめです。甲乙がつけがたいのですが……。井上さん、いかがでしょうか?
井上:どこも甲乙つけがたいのですが、どこか一箇所だけということであれば、やはり米ストロングミュージアムでしょう。機会があれば、ぜひ行かれることをお勧めします。
天野:私もそう思います。最近、施設を拡大したんですよね。
中村:今年拡大しましたね。Nintendo of Americaと連携して、『ドンキーコング』の特大アーケードゲームを設置したりしています。
天野:巨大な博物館だったので、また行ける機会があればぜひと思ってます。
三宅:Replaying Japanの募集記事に翻訳記事があると思いますが、こちらはどういう記事であれば採択されるのでしょうか? あまり見ないと思うんですが、設置された意図や、過去の採択事例などについて教えていただけると助かります。
井上:僕も設置については正直、あまり関わっていませんでしたが、推測を交えて申し上げます。準備号の内容を見ていただくと、講演記録が掲載されています。このうち、レイチェル先生の「乱反射するビジョン」の話や、カレンスキー先生の基調講演を日本語でも読んでもらいたいということで、翻訳を掲載したのが始まりだったと思います。
その後は今のところ、投稿自体がありません。編集サイドでも議論の遡上に上がることは少なかったのですが、日本語の論文で時期的に重要なものを翻訳するみたいなことかなと、勝手に理解しています。
これは個人的な考えですが、中沢新一さんの『ゲームフリークはバグと戯れる』という、日本のゲーム批評史上、非常に重要とされる記事がありますが、これが6年ぐらい前にアルバート大のチームによって、英語に翻訳され、海外の日本のゲーム研究コミュニティに受け入れられたことがありました。そういった、日本の研究史上で重要な論文の翻訳があったほうが、海外の方と議論のすり合わせがしやすいと思います。それはやっぱり、あった方がいいんだろうと個人的には思っています。もちろん著作者との調整も入りますし、どこまでが重要かは議論があると思います。
三宅:自分も翻訳論文を投稿したいなと思っているのですが、これはいきなり翻訳したものを投稿していいのでしょうか? それとも、なにか基準のようなものについて、問い合わせていいのでしょうか?
井上:そうですね。CFPのページの下に問い合わせ先がありますので、そこから正式に問い合わせていただければ、編集委員の方で検討してお返事できると思います。
登壇者による議論、そしてまとめ
井上:Replaying Japanに参加することで、海外からの研究者の視線や、温度差などについて何か感じられたことはありますか?
中村:昨年、ある研究者がライトニングトークで『龍が如く』の食事について取り上げていました。我々は当たり前だと思っていることが、海外から見れば違って見えるところがあるというのは、非常に価値があるなと感じましたね。そういう意味でも、「海外の研究者が見る日本」について接したり、交流が持てたりするのは、なかなかないんですよね。これがDiGRAになると、非常に大きなコミュニティになりますし、研究対象が必ずしも日本のゲーム文化ではなくなります。非常に多くのセッションがある中で、そうした発表を見つけなければいけません。しかし、Replaying Japanの場合は「それだけ」なので。そこにしっかり踏み込めるチャンスかなと。
天野:その通りだなと思いますね。普通に日本人として、日本に住みながら、研究したり、生活したりしていると疑問に思わないことが、徹底的に議論される場として、貴重な体験ができると思っています。自分にとっては、約10年かけて行ってきたパチンコの研究が、まさにそうでした。最初にジェフリー先生から、「パチンコのことを研究したいので、日本で共同研究をしてくれる人を探している」とご相談を受けて、それが契機でご一緒させていただくことになりました。Replaying Japanはそうした、日本のゲーム文化に興味がある研究者と知り合って、国際共同研究につながる種が見つけられる、良い機会だと思います。さまざまな発表を聞く中で、自分のアンテナに引っかかるようなものがあれば、積極的に話しかけてみる、ということが気軽にできる空気感がありますので、ぜひ体感していただきたいなと思いますね。
井上:海外の人文系の研究者が、日本のどのような文献を読んでいるか、概観できる点もありますね。東浩樹さんの『動物化するポストモダン』や、大塚英志さんの『物語消費論』などは、英訳されていることもあり、多くの研究で引用されています。ああ、そういうイメージなんだなと。DiGRAだとそこまでではありませんが、Replaying Japanだと大塚、東は読まれていることが前提という印象を受けますね。
逆に日本のイメージについて、そこをそんなに強調して語らなくても……という、悩ましい思いをすることもあります。これは文化研究が抱える重要な論点でもあります。他の国や文化を外部から表象した時、ある種のステレオタイプに寄ってしまうことがありますよね。そこが良い、悪いと言っているわけではなくて、文化研究全般で悩ましいなという思いは感じています。
ということで、そろそろまとめようと思うのですが、天野先生、中村先生、一言ずつ締めの言葉などいただければと思っております。いかがでしょうか?
天野:ほぼ1週間前ということですけれども。今から参加登録していただければ幸いです。今日はさまざまな話が出てきましたが、日本でゲーム研究をされている方にとって貴重な機会の一つになるかと思いますので、ぜひ参加を検討いただければと思います。
中村:いまゲーム研究をして、将来どうなるんだと疑問に思っている大学院生がいるかもしれません。学部生でもいるかもしれませんね。そうした学生でも発表できる機会がReplaying Japanなので、先生方におかれましては、学生にそうしたチャンスを与える場という点でも、ぜひ参加をご検討いただければと思います。
また、日本のゲーム研究、たとえば日本デジタルゲーム学会がどんどん成長していく一方で、その原点ともいえる、小さな研究者コミュニティの良さが、Replaying Japanにはまだ残っている感じがします。お互い手弁当で一緒に頑張ろうね、みたいな感じで進めていかなければ、何も動かないという。そうした意識を感じられるのが、Replaying Japanかなと思いますので、ぜひ参加して楽しんでください。
井上:それではこちらでいったん締めさせていただきます。学会の方も、それからジャーナルの投稿の方も、お待ちしております。Gather.townに出席された皆さん、録画をYouTubeでご覧いただいた皆さん、ありがとうございました。