投稿日:2021年5月10日/ 更新日:2021年5月13日


シリアスゲーム座談会
-シリアスゲームについてゲームジャムの面から可能性を考える-

上段左から粟飯原(日本大学)、岸本(遊びと学び研究所)、古市(日本大学)
下段左から 太田和彦(南山大学) 、大谷(地球研)

■参加者プロフィール

粟飯原萌(モデレーター)
日本大学 理工学部 精密機械工学科 助手

DiGRA JAPANの広報委員
これまでシリアスゲームの研究を行い、主に学習を目的としたシリアスゲームの構築法について取り組んでいる。シリアスゲームジャムについては、海外のアプライドゲームジャムへの参加経験や、2016年から日本デジタルゲーム学会のシリアスゲームジャムの運営にも携わっている。
学生のときからシリアスゲームに興味があり、シリアスゲームジャムの運営も手伝っていた。


古市昌一
日大生産工学部 数理情報工学科 教授

日本デジタルゲーム学会では国際委員会の委員長および研究委員会の委員を勤める。
シリアスゲームを含めたゲーム一般の構築法を研究している。
前職では28年間、三菱電機で防衛・宇宙用のシリアスゲームを開発。
自衛隊がどのような装備品を持つ必要があるかを検討するためのシリアスゲーム(シミュレーションシステム)を開発していたほか、シリアスゲームの作り方のマニュアルを作成し、防衛省におけるシリアスゲーム開発で利用されている。


岸本好弘
遊びと学び研究所 ゲーミフィケーションデザイナーLv98

日本デジタルゲーム学会ではゲーム教育SIGの代表を勤める。
ナムコ(1982年~2001年)・コーエー(2001年~2010年)にてゲーム開発者として勤務
東京工科大学メディア学部にて特任准教授(2012年~2017年)。
2014年、第1回シリアスゲームジャムを開始。その後は古市先生と一緒にSGJを運営。
アナログゲームジャムは2018年、見学及び審査員として参加。


太田和彦
南山大学総合政策学部准教授(座談会時は総合地球環境学研究所に所属)

持続可能な食と農に関する研究プロジェクト「FEAST」に参加。様々な関係者がいるフードシステムに対する理解を深める機会を作りたいと考え、試行錯誤するうち、シリアスボードゲームジャムに至る。
2018・2019年、シリアスボードゲームジャムを開催。


大谷通高
総合地球環境学研究所(地球研)

研究成果物をデータベース登録し、一般に利用可能な形で提供するなど、情報基盤を整える部門で活動。
前職では立命館大学のゲーム研究センターでアーカイブを手伝う。
情報を整理をする視点から見たゲームの利点を踏まえ、情報整理・情報伝達推進の観点からゲーム研究を進めている。シリアスボードゲームジャムには太田からの声掛けで参加。

記事作成 徳岡正肇

(以下本編)


■シリアスゲームジャムのこれまで

粟飯原:

 本日はシリアスゲームについて、ゲームジャムの方向から可能性を考えて行きたいと思い、皆様にお集まりいただきました。

 これまでのゲームジャム関係のお話はもちろんなのですが、今後のゲームジャムとシリアスゲームの可能性についても話を膨らませたく思います。

 さて、まずは「シリアスゲーム」と「ゲームジャム」について、念の為に簡単な説明をしておきます。

シリアスゲームとは:社会における様々な問題解決を目的として開発されたゲーム(デジタル・アナログ問わない)

ゲームジャム:ゲーム制作に興味のある人が集まり、短時間でゲームを制作するイベント

 では改めて、岸本先生と古市先生に、これまでのシリアスゲームジャムについてお話を伺いたいと思います。

岸本:

 私は2012年に東京工科大学メディア学部の教員になりました。東京工科大学のメディア学部はデジタルゲーム(インタラクティブゲーム)を専門にして教えており、ゲーム業界を目指す学生がけっこういるんですね。またGlobal Game Jam(以下GGJ)の会場として何年も前から使われており、毎年100人近い参加者が集まっていました。

 つまりGGJも含めて、エンターテイメントゲームを作れる学生が周囲にたくさんいるという環境があったわけです。

 一方、シリアスゲーム研究の第一人者である東京大学の藤本先生とお話をしたとき、「シリアスゲームを作るイベントをしたらどうだろうか?」という話は出ていたんですよね。ただ藤本先生は「そのようなイベントに、ゲーム制作のノウハウを持った学生・社会人を集めるのは難しい」という問題点も指摘されておりました。

 だったら自分が東京工科大学メディア学部のポテンシャルを活かして学生を主体としたゲームジャムをすればいいじゃないかと思いまして、第1回のシリアスゲームジャム(以下SGJ)を開催しました。私自身は当時、「ゲームのノウハウを使って、社会問題や啓蒙すべきことを伝える」ことを研究対象とした次世代ゲーミフィケーション研究室を持っていたので、学生にエンターテイメントゲーム以外のゲームも作らせてみたい、という思いもありました。

 ただ第1回では事前レクチャーの時間が取れませんでしたので、制作者にとってもわかりやすく、また制作者当人の個人的な経験としても良くも悪くも豊富であろう「英語学習」をテーマにしました。

 第1回SGJでは5つのゲームが作られまして、そのうちのひとつ「Riddle in Pieces」はいまもブラウザでプレイできます(http://kishimotolab.org/SeriousGameJam/final/final.html)ので、ぜひ遊んでみてください。

古市:

 「Riddle in Pieces」は本当に面白いゲームですね。私も「第1回からここまで作れるのはすごい!」と感心しました。

 さて、シリアスゲームジャム(以下SGJ)はこれまで8回開催してきましたが、私は2回目から合流しました。

 SGJは、ポータルサイト(http://www.mediadesignlabs.org/index.html)にあります通り、「『ゲームの力で世界を救え』がテーマとなっています。現状、最後に開催したのは2019年12月の第8回となります。なおこのポータルサイトには第1回から第8回までの記録が残っており、岸本先生にご紹介頂いたように今もプレイ可能なゲームのリンクもあります。

 私が合流した第2回はサイバーセキュリティがテーマでした。このテーマは防衛省でもお大幅な人材不足が懸念されていた問題でして、それもあってテーマとして選択したということになります。

 さて、私自身は会社でシリアスゲームばかり作っていたこともあり、シリアスゲームの作り方というものはゲーム全般に通じるものかなと思っていました。つまりエンターテイメントを目的としたゲームも、シリアスゲームと同じワークフローで作っているのだろう、と思っていたんですね。

 しかしながら岸本先生が、東京工科大学に就任されるちょっと前に、私の研究室にいらっしゃいまして、そこでお話をする機会を得ました。これがエンターテイメントゲームの制作者と会った、初めての経験となります。

 そこで岸本先生から学んだのは、シリアスゲームとエンターテイメントゲームでは、ワークフローが大きく違うということです。エンターテイメントゲームには「世の中の課題を解決する」部分がありませんが、シリアスゲームはまず課題そのものの調査などを行わねばなりません。

 この経験に基づき、私は「シリアスゲームの作り方を普及させる必要がある」と感じ、SGJに合流したというわけです。最近はSGJの参加者に社会人・外国人も増えてきており、幅広くシリアスゲームの作り方を知って貰えるようになってきたと思います。

粟飯原:

 第2回のテーマがサイバーセキュリティに決まった経緯を詳しくお話しいただけますか?

古市:

 私はもともと防衛省と仕事をさせていただいていたのですが、2013年12月に「サイバーセキュリティ・シリアスゲーム研究会」が省内で開かれ、自分も招かれたんですね。その席には藤本先生もいらっしゃいました。

 翌年2014年2月に第2回のサイバーセキュリティ・シリアスゲーム研究会が開かれて、そこで動画の発表などもありました。この動画はとても良くできたものだったのですが、動画だと「この問題をどう解決するのか」が見えてこないわけです。

 そんななか、同じく防衛省で開催されていた「シミュレーション研究会」の第45回にお招きをいただきまして、これがSGJ2回につながっていきました。研究会は防衛大学校の先生が音頭をとっておられまして、SGJ2回の成果物は防衛大学校の学生に協力してもらっての効果測定も積極的に行われています。


■シリアスボードゲームジャムのこれまで

粟飯原:

 ありがとうございます。続いてシリアスボードゲームジャム(以下SBGJ)について、まずは太田先生から開催の経緯などをお願いします。

太田:

 SBGJは地球研の「FEAST」(フードシステムの持続可能を向上させる社会のあり方の転換について研究を進めるプロジェクト)が主体となっています。イベントの基本的な骨子はSGJと同じですが、デジタルゲームではなく、ボードゲームを作るイベントとなっています。

 なぜボードゲームを作るイベントにしたかと申しますと、まずアナログゲーム制作には参加者に対するスキル要求の幅が狭いから、という理由があります。

 デジタルゲームの制作にあたっては、プログラミングの知識はもちろんのこと、絵にしても音にしても専門の知識とスキルが必要です。そしてそれらの知識やスキルを持っている人は少ないんですよね。

 またボードゲームを作るイベントにしたことで、意見交換の時間を確保しやすいという側面もあります。SBGJの参加者は主に研究者・ゲームクリエイター・一般(学生)と3つの層に分類できますが、この3グループはそれぞれ異なる関心を持っています。研究者は社会問題や環境問題そのものに関心があり、ゲームクリエイターはゲームを面白くすることに関心があり、一般参加者は本当に多彩な関心がある、といった具合です。

 このため意見交換の時間を長く持ちたいのですが、一般的なゲームジャムだとプログラミングの時間に入るとプログラミングが中心になってしまいがちなんですよね。

 加えてイベント終了後も継続開発がしやすいというメリットがあります。デジタルゲームですとプログラマやデザイナーがチームから抜けてしまうと継続開発がほぼ不可能になってしまうことがありますが、ボードゲームならば継続は容易です。ゲームのフィジカルな構成要素(コンポーネント)を変更する場合ですら、柔軟に対応できます。

 数値的な面から言いますと、第1回SBGJでは9ゲームが開発され、継続開発に至ったのがそのうち5ゲームあり、2ゲームがゲームマーケットなどでの販売にこぎつけました。

粟飯原:

 SBGJは2回開催されていますが、1回目と2回目で違いはあったのでしょうか?

太田:

 FEASTがベースにあるので2回ともテーマは「食」で、その点は同じなのですが、第2回では第1回での課題を踏まえてシステムを変更しています。

 というのも第1回を実施した結果、3つの課題が見えてきたからです。

 まず、社会問題に対する議論は活発に起こるのですが、そこで生まれた議論をどうゲームに落とし込むのか、どうやってそれを実装するのかということになると手が止まりがちになることが多かった、ということ。

 続いて、「自分の関心があるテーマでゲームを開発したい」という意見が多く見られたこと。

 最後に「イベント後にゲームをブラッシュアップするきっかけがほしい」ということ。

 これらを踏まえまして、第2回ではチーム編成の仕方を「呼びかけ人」方式に変更しました。

 第1回では「こういうテーマでゲームを作ります」というテーマの呼びかけをする人を運営のほうで個別にお願いしていたのですが、第2回では参加者から食という枠組みのなかでテーマ案を募り、会場で「このテーマでゲームを作りたい」と呼びかけ人にアピールしてもらうことにしたんです。

 またイベント後に審査会を行い、ピアレビューする機会を作りました。結果、第2回SBGJでは8チームのうち5つのゲームが継続開発に至り、3ゲームが完成しました。

 大谷先生はSBGJ当日、参加者として実際にゲームを作る側に立って頂きましたが、実際にSBGJでゲームを作ってみて、どうでしたか?

大谷:

 私はSBGJに2度参加していて、2019年では「呼びかけ人」として参加しまして、「マナーの食卓」というゲームを作りました。太田からも説明があったように、呼びかけ人とは自分が関心のあるトピックを紹介し、チームを編成する役割を負っています。「マナーの食卓」の中心となるテーマは「正しさによる争い」で、正しさによる殺伐とした対立状況を体感できるゲームを目指しました。

 「マナーの食卓」なのですが、Ver1とVer2がありまして、この2つはそれぞれまったく違うゲームに落ち着きました。

 Ver1は陣地獲得型のゲームボードを使ったゲームでして、こちらは9月のSBGJの段階でいったん完成したんです。そしてそこから1回2時間程度の打ち合わせを14~15回繰り返したのですが、打ち合わせを繰り返してもなかなか「どう改善すればいいか」は考えあぐねていました。

 Ver1の改善の過程でVer2が制作されまして、Ver2はカードゲームとなり、大喜利系のコミュニケーション・カードゲームとして完成しました。2020年の9月から現在に至るまで、1回5時間程度の打ち合わせを7回ほど持ちまして、無事ゲームマーケットでのリリースにまで漕ぎ着けられました。

粟飯原:

 制作がとても順調で、実際にリリースまで到達しているのは本当に素晴らしいと思うのですが、何が理由なのでしょうか?

大谷:

 まず、参照するゲームがあったのは大きいかと思います。Ver2の場合は「キャット&チョコレート」ですね。

 それから、チームメンバーの役割分担がはっきりしていたのも良かったです。なかでもイラストが描ける人がいたのは結構大きいですね。

 また審査会があったことで、作っているゲームの何が面白いのかが客観的にわかった、というのもありがたかったです。

 一方で反省点もありまして、イベント時は時間がたくさんとれるので制作が快調に進むのですが、イベント後の継続開発となってくるとまた違ったノウハウが必要になる、というのは印象に強く残っています。

 「マナーの食卓」の場合、Ver1の頃は打ち合わせ時間を2時間と設定したんですが、これだと毎回ゲームルールの確認だけで時間のほとんどを使ってしまったりするんです。参加者全員が、開発中のゲームのルールをずっと覚えていられるわけではないですからね。

 でもこの「短い打ち合わせ時間ではあまり意味がない」という教訓をもとに5時間の打ち合わせ時間をとったら、今度は「ボードゲームがカードゲームに変化する」という、ちょっと大きすぎる変化につながったという側面もあるので、なかなか難しいですね。

 ともあれイベント中はもちろん、継続開発での打ち合わせも含めて、ゲームの仕様やルールを作ることを通じて社会問題について改めて考える機会が得られたと思います。またVer1からVer2へと進むにつれてテーマがより深堀りされていったという実感もあります。

粟飯原:

 ありがとうございました。

 SGJもSBGJも「ゲームジャム」という名前は同じだが、それぞれ異なる要素を持っていることがはっきりしたかと思います。

 続いていくつかの論点について、議論を進めていきたいと思います。まずは「主催もしくは開発チームに専門家が在籍する意味」について、古市先生からご意見を伺いたいと思います。


■専門家の手助けとシリアスゲーム

古市:

 シリアスゲームは、解決すべき課題を参加者が理解しないことには作れません。なのでテーマについての専門家は原則として必要ですね。サイバーセキュリティのような専門的かつ難しいテーマの場合、参加者に対してレクチャーの日をまる1日用意し、その後も参加者はサイバーセキュリティについて詳しく調べながらゲームを作っています。

 またこれはテーマにもよりますが、ゲームを作っている間にも専門家からのアドバイスが得られるほうが望ましいこともあります。

 もちろん、第6回SGJ「英語学習と親子(親子のコミュニケーションのなかで「英語は楽しい」と思うシリアスゲーム)」のように、参加者全員が専門家といえるようなテーマもあります。

 第1回で岸本先生が英語学習をテーマとして選ばれたのも、そこが大きいのですよね?

岸本:

 そうですね。第1回ということもあり、敷居をさげなくてはならないということで、専門的知識がなくてもいけるテーマを選びました。

 ただ、第1回のときもネイティブで英語教育に関わっている人が2人参加しまして、その2人は自分が所属するチーム以外のメンバーにもアドバイスしていました。またゲームに必要となる「ネイティブの発音する英語」の録音も手伝っています。

 シリアスゲームはテーマが一番大事で、それに沿ったゲームの実装にできるかが問われますから、専門家がいることはとても大事です。専門家がいないと、どうしても「面白いだけのゲーム」になりがちですね。

古市:

 SGJでは「みんなのバリアフリー」というテーマを3回やりましたが、1回目(第5回)は車椅子ユーザーおよび研究者、それから作業療法士が参加しています。2回目(第7回)・3回目(第8回)は作業療法士の田中先生に張り付きで参加して頂き、ゲームの中身についても積極的にアドバイスをもらいました。

 このように、ゲームとシリアスゲームの両方に興味のある専門家が参加してくれると、とても嬉しいですね。実際、第8回では作業療法士が開発メンバーにも加わったのですが、これはとても良い経験でした。次に開催するときは、作業療法士が各チームに1人はいるという形式でやってみたいですね。

太田:

 SBGJ2018では食に関わる問題の、トピックだけを最初に簡単に紹介しました。SBGJ2019では事前レクチャーはなく、テーマを呼びかけ人がプレゼンして、参加者が自分の関心のある呼びかけ人のもとに集まるという形でチームを構築するようにしています。

 SBGJ2019の方式ですと、呼びかけ人の全員がチームメンバーを集められたわけではないのですが、異なる専門知識を持つ人が集まるきっかけになっていました。

大谷:

 私は専門家としてチームに入ったのですが、食に関する専門家ではないですし、マナーの専門家でもないんですね。私は加害・被害関係を研究テーマとしていますので、あえて言えば「弱い専門性の中で作った」ことになるかと思います。


■ゲームジャムで作ったゲームを正式リリースする難しさ

粟飯原:

 続いて、「ゲームジャムで作ったゲームを、最後まで開発して、リリースすること」について議論したく思います。

古市:

 SBGJではゲームジャムから始まって実際にリリースするところまで行ったと聞き、ほんとうにびっくりしました。羨ましい限りです。

 シリアスゲームジャムは参加者自らが課題に気づくことも大事なんですが、その後でいかに多くの人に実際にゲームを遊んでもらい、体験してもらうかということが、とても大事なんですよね。ですからゲームをリリースしているというのは素晴らしいことなんです。

 SGJはデジタルゲーム制作ならではの難しさというところもありますが、学生の参加者が主体ということもあって、なかなか継続的な開発につながらないというのが大きな課題だと感じています。第2回のSGJのときは、担当した学生が卒業研究・修士研究と引き継ぐことで継続開発ができましたが、この場合もリリースする方向というより、成果を論文にまとめる方向に注力することになったんですね。

 というのも、アプリとしてリリースすると、コンテンツ自体のバージョンアップもさることながら、OSなどの更新によるメンテナンスも必要となります。これを個人レベルで続けるのはとても難しいことで、会社を作るしかないのか……? となってしまうんですよね。

岸本:

 第1回の「Riddle in Pieces」はブラウザベースということもあって、作品が今でもちゃんと動くというのが良いですね。ブラウザベースで作る利点がよく出ていると思います。

 第2回で作られた東京工科大学のチームの作品も、良くできていたんですが、その後のメンテナンスができなくて今ではプレイできなくなってしまいました。動画だけでも撮っておけばよかったと反省しています。

 ともあれ、デジタルゲームってリリースまでなかなか行かないんですよ。プログラマが作らないと完成しませんが、学生でも社会人でも他の授業や仕事がありますから、かかりっきりにはなれませんし。第1回の企画の中にも、その場では完成しなかったけれど、継続開発することで一応は動くところまで漕ぎ着けた作品はあるんですが、リリースまでは持っていけませんでした。

 なので私もアナログゲームジャムが羨ましいですね。

粟飯原:

 SBGJではリリースだけでなく継続開発できた率も高いですが、どのようなチーム構成になっているのでしょうか?

太田:

 SBGJ2018では研究者:開発者:一般で1:1:1という比率でした。各チームに、何らかの形で、研究者と開発者がいるというスタイルですね。これはチームのバランスが良くなるのですが、研究者と開発者にお願いして来てもらうのが大変でして。前述のようにSBGJ2019で「呼びかけ人」方式に変更したもうひとつの理由は、この大変さをどう克服するかを考えた結果でもあるんです。

 例えば、SBGJ2019では日本酒と地域振興について普段からイベントを開催している参加者が呼びかけ人となり、その活動経験をもとにチームメンバーを募集したり、また高齢者の食に関心がある呼びかけ人が、他の呼びかけ人のテーマのプレゼンを聞き、そのテーマに共鳴した結果、呼びかけ人を辞めてチームメンバーとして参加することにした、というケースもありました。

 結果としてチームの構成はバラバラになりましたが、参加者の満足度は高まっています。

 また2019の方式の利点として、チームの垣根を超えたやりとりが多かったという点が指摘できます。参加者がどの呼びかけ人のチームに加わるかを決めるために1時間用意したのですが、この間に参加者の間でコミュニケーションが進み、互いの専門性や関心に対する知識が深まったんですね。

 結果、自分たちのチームのゲームを制作するにあたって、他のチームのメンバーに話を聞きにいく、ということも起きるようになりました。

 また継続開発を促進する要素として、審査会が良いモチベーションになっているとも感じます。審査会はSBGJの1ヶ月後に設定したのですが、その1ヶ月の間にゲームを遊べる水準にまで仕上げてくるチームが多かったんです。

 これが1ヶ月以上となるとダレるのではないかと思いますが、「1ヶ月後に締め切りがある」というのはモチベーション維持にちょうど良かったようです。

 ただこれも、アナログゲームはプログラマがいなくても作れるからこそのことかもしれないですね。

大谷:

 参加者として言いますと、1ヶ月後が目標となって開発する、というモチベは確かにありましたね。あと審査会を通すと、どのように面白がって遊ばれているのかを直接見れるのが大きいです。

 ただボードゲームの難点として、その場に集まらないと作れないという点があります。オンライン上では開発できないんですよね。なのでコロナ下ではSBGJ開催は難しい、というのが現状です。

 それからボードゲームの場合、「リリースに到達する」ためには、実際にモノを作る必要があるというのも大きな課題です。ボードやコマといったものを大量発注して、在庫を保管し、それを店舗や通販、即売会での流通へと流していく必要があります。複雑なコンポーネントを持つゲームの場合、ゲームそのものの容積も大きくなりがちですから、在庫が占める空間も広くなりますしね……私達のチームはカードゲームでしたからまだコンパクトにまとめられましたが。

 この点は、ストアに登録すれば全世界に配信できるデジタルゲームとの大きな違いかなと思います。

古市:

 なるほど! ボードゲームはオンデマンド・パブリッシングというわけには行きませんからね。そういう困難があるわけですね……

 そうなると、デジタルゲームを作ることを前提とするゲームジャムだけど、まずはペーパープロトだけを作って、そこで審査会をするのは良いかもしれないですね。その後、そこで生まれた企画に基づいてデジタルで制作するジャムを改めて行う、という方式で。

粟飯原:

 私が参加した、韓国で開催されたアプライドゲームジャムでは、48時間でゲームを1本制作したんですが、最初の1日はアナログでプロトタイピングするんですよね。そして2日目に、アナログのプロトタイプをデジタルで作るという形式でした。

 アナログで作ってデジタルに持って行くというのは、良い経験でしたね。

■コロナ下でのゲームジャム

粟飯原:

 さて、先程大谷先生から「コロナ下でのゲームジャム」という論点が出ましたが、古市先生は昨年末にオンラインのゲームジャムに参加されたと伺っています。

古市:

 2020年11月30日~12月10日まで、長期間に渡ってオンラインで行うゲームジャムに参加しました。参加者は日中韓と3カ国に渡っていましたが、普段以上に海外の人と一緒に活動できていましたね。というのもオンラインでやりとりするのが標準なので、自動翻訳が活用しやすいんです。

 オンラインでもゲームジャムは問題なくやれるという手応えがありましたね。

 また私の授業でも、シリアスゲームジャムの経験を活かして、学生65人で様々なシリアスゲームを作る、ということをやっています。ハードルを段階的に用意して、ゲームを完成させられた人は、それを世に出すことを最終目標としています。

 実際、作品をitch.ioに投稿できていまして、全作品とも動くには動きます。

太田:

 オンラインでできるのはデジタルゲーム最大の強みですよね。

 大谷先生からも指摘がありましたが、ボードゲームは集まらないと作れないし、遊べないので、これはコロナ下における壁になりました。

古市:

 ペーパープロトならVR環境で作ったりすることも可能ではないでしょうか? 急にVRというのは難しくても、なにか方法があるように思えます。

 実際、昨年末の中国でのゲームジャムは、ペーパープロトも作っていたんですよ。ペーパープロトタイプそのものは誰か1人の手元にだけあって、それを見ながらチームで討議するという形でした。

太田:

 なるほど、実際に手を動かす人を一元化するわけですね。

古市:

 その上で先程の在庫管理の問題も伺うに、VRボードゲーム・VRカードゲームという方向が理想のひとつではないかな、とは思いますね。

太田:

 確かに、デジタルとアナログがうまく噛み合う場所を探したいですね。

古市:

 研究テーマとしても面白いと思いますよ。


■ゲームジャムでシリアスゲームを作る意義

粟飯原:

 では最後になりますが、ゲームジャムでシリアスゲームを作る意義について、一言ずつお願いします。

古市:

 短く言うなら、シリアスゲームを作るとは、世の中の課題を知るということなんですね。課題を知るきっかけはゲームでなくて構わないんですが、とにかく知るということが大事です。そしてそういった課題を本当に知るためには、コツコツ調べて、ゲームとして形にする必要があります。

 また、そうやって知った課題を、ゲームという形で多くの人に体験してもらえるというのも良い機会です。社会的な課題は、自分が知るだけではダメで、多くの人に知らせる必要があるわけですから。

 課題を、ゲームにして、分かち合う。このことをもっと目指していきたいですね。

岸本:

 エンターテイメントゲーム業界を目指す学生に対し、教員として、「楽しいことも良いが、ゲームはもっと社会の問題を解決するチャンスがあるはずだ」ということを伝えたいという気持ちがあります。

 「ゲームを作れる側にいる」というのは重要なことで、それはつまり「社会問題や教育の問題を少しでも解決できる立場にいる」ということでもあるんです。そのことを知ることが、とても大事なんですよね。

 その上で、作ったゲームを世の中の大勢の人に遊んでもらえるよう、リリースに持って行けるようにしていきたいですね。

太田:

 ゲームジャムを通じてシリアスゲームを考えるにあたって、ジャムという形式が優れている点として、「失敗してもよい」ということがあると思っています。オランダの研究者とシリアスゲームを作るなかでわかったのですが、ジャムのほうがアイデアがよく出るんですね。

 試行錯誤の機会が与えられるというのが、ジャムの良さだと思います。また高齢者福祉に強い興味を持っている人が、ジャムの日には難民問題を扱うチームに急遽加わったりするなど、普段とは違う興味・役割を得られるのもジャムの魅力です。

 シリアスゲームジャム自体が、ある種のシリアスゲームなのだろうなと思いますね。

大谷:

 実際にシリアスゲームのリリースに向けて動くとなると、「誰に」「どう」「何を伝える」ということを、すごく考えるようになるんですね。これをチーム全員で考えるというのは、ひとつの社会活動といえます。

 実際、最近は地域でボードゲームを作るという話があちこちで立ち上がっていますが、その中では「地域の特徴や魅力を発見する」ことが重要なポイントとなります。これはつまり、地域を作っていくということでもあるんですよね。

 このように、ゲームを作ることが、社会を作ることへと広がっていく。ここにも、ゲームジャムの可能性を強く感じます。

粟飯原:

 本日はどうもありがとうございました。

本記事の内容はインタビューの様子をYouTubeで公開中です!
是非ご覧ください。https://youtu.be/MXoW-liNulo