投稿日:2024年8月13日 / 更新日:2024年8月13日


「第16回 ゲーム教育SIG勉強会:オタク力」を開催
2024/5/24(金) 20:00-21:30

 こんにちは。東京大学大学院学際情報学府修士2年生の犬田悠斗です。ゲーム教育SIGでは、2024年5月24日に、第16回勉強会をオンラインで開催しました。今回は、「オタク力」をテーマに勉強会を行いました。参加者は、18名でした。
 今回の勉強会では、藤川大祐先生(千葉大学)、小野憲史先生(東京国際工科専門職大学)、見舘好隆先生(北九州市立大学)、小牧瞳先生(千葉大学)から「オタク力」に関する発表をしていただきました

■発表
藤川大祐先生 〈「オタク力」研究のこれまで〉
 まず藤川先生から〈「オタク力」研究のこれまで〉という題目で「オタク力」研究の概要と意味論的検討について説明していただきました。

 「オタク力」研究は、2020年に藤川先生が「オタク型成長曲線」のアイデアを発表したことから始まりました。「オタク型成長曲線」とは、趣味として何かに没入することによって獲得/伸長されることが期待される能力である「オタク力」をまず伸ばし、その後に学力を高めるという成長曲線のことです。その後、研究チームが発足し、「オタク力」の研究が進められてきました。
 「オタク」概念の意味論的検討では、オタクという否定的意味合いを受け入れることで、自己肯定感、差別に対する防御能力、他の被差別者を支える態度をを身につけることが可能であると説明されました。そして、これらの能力も、「オタク力」として考慮する価値があるのではないかと発表されました。
 また、学校がオタクであることを積極的に認めていく必要があると主張されました。まずはオタクであることが肯定的に受容されるようなサンクチュアリ(聖域)としての教室や授業が必要であると発表されました。

小野憲史先生 〈M-GTAによる「オタク力」の可能性の検討〉
 次に小野憲史先生(東京国際工科専門職大学)から〈M-GTAによる「オタク力」の可能性の検討〉という題目でゲーム産業における「オタク力」の可能性について説明していただきました。
小野先生は、M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)という質的研究の方法を用いて、一般的な会社とゲーム開発会社におけるオタク力人材に対する期待感の変化に違いがあるか分析されました。
 その結果、一般的な企業とゲーム開発会社どちらでも、オタク力人材が持つ3つの力、「最後までやり抜く力」、「自らの活動を積極的に情報発信する力」、「活動を通して出会った仲間を結びつける力」は仕事に活きる可能性があることが分かりました。
 一方で、オタク力人材を獲得するために、一般的な会社はリファラル採用を実施しているのに対し、ゲーム開発会社は作品選考を行っていることが明らかになりました。また、オタク力人材を活かすために、一般的な会社はオタク力人材を組織に馴染ませるコーディネーターを設けているのに対し、ゲーム開発会社は、オタクにとって居心地の良い空間とオタク力を持つマネージャを設けていることが分かりました。

見舘好隆先生 〈Is the OTAKU required as human resources? 科研費による大規模アンケートの分析速報について〉
 次に、見舘先生から「Is the OTAKU required as human resources?」という題目で民間企業における「オタク力」を持つ人材のニーズと活用の可能性について説明していただきました。
 見舘先生は、企業の人事担当者および経営者に対して、オタク力人材のニーズと可能性に関するインターネット調査を行いました。その結果、イノベーションを目指す企業ほど、もしくは創造的な取り組みを行っている企業ほど、オタク力人材を求めていることが明らかになりました。また、社員数が多い、有給取得率が高い、平均年齢が低いほど、企業とオタク力人材の親和性が高いことが分かりました。
 加えて、因子分析の結果、オタク力人材と親和性の高い企業には、⑴心理的安全性や仲間からの支援、⑵勉強支援、没入できる場所、⑶本業とは別の個人プロジェクトを行える仕組み、⑷適度な刺激があることが分かりました。

小牧瞳先生 〈「オタク力」をいかした授業づくり〉
 最後に、小牧先生から〈「オタク力」をいかした授業づくり〉という題目で、「オタク力」をいかした授業づくりとその工夫について説明していただきました。
 小牧先生は、「オタク力」をいかした授業づくりを行う上で、2つの手法が有用ではないかと提案されました。1つ目は、やりたいことがある、好きなことがある生徒の可能性を排除せず、クラス全体への学びと繋げていくことです。2つ目は、嫌いなこと、苦手なことに直接向き合わせず、好きなことを間接的に用いて自然と学びに向かわせていくことです。
 加えて、「オタク力」をいかした授業づくりの教育実践についても紹介されました。具体的には、数学が嫌いで苦手だが、絵を描くことが大好きな生徒が数学に没入できるように、授業で数学の擬人化キャラクターの募集を行った取り組みについて説明されました。取り組みの結果、その生徒は、学習していない範囲の内容を使ってキャラクターを考案したり、既習の数学的知識からキャラクターの設定を考案したりしました。


今回の報告記事は以上になります。次回勉強会は、7月26日に行う予定です。ぜひ次回の報告記事もお読みください。それでは。