投稿日:2018年11月10日 / 更新日:2018年11月10日


 ヘルシンキの小山です。ヘルシンキ便りがしばらく途絶えてしまい、申し訳ありません。理由は、同行中の妻がうつにかかり、フォローで殆ど外出できないようになっていたからです。2ヶ月ほど、スーパーへの買い物以外外出もままならない状況でした。また、私の気力の面でも明るい感じで「ヘルシンキ便り」が書ける状況でもありませんでした。
 幸い、こちらで日本人コーディネーター兼通訳の方の協力を得て何度か病院に通い、状況は改善されました。私自身の一時帰国(11月26日~12月8日)にあわせて妻も帰国し、その後は日本で様子を見ることになりました。
 そういった事情もあり、今回報告できるのは英国に出張して発表したReplaying Japan 2018だけです。あとは、逗留先の宿の部屋で日本語の書籍の原稿を執筆したり、拙著(日本デジタルゲーム産業史)の翻訳を勧めていました。

1)Replaying Japan 2018
 日本のゲームに関する学会であるReplaying Japan 2018が8月20日-22日にかけて英国ノッティンガムで開催されました(https://replaying.jp/)。


ノッティンガム駅

 会場はNational Videogame Arcadeというゲームの博物館です。National Videogame Arcadeは2015年に開館しましたが、この学会後閉鎖され、まもなくシェフィールドへと移転することが決定しています(11月24日オープン予定 https://www.thenvm.org/)。
 発表される内容はゲームデザインや技術に関するもの少しありますが、メディア研究や作品の研究などといったいわゆる人文学にカテゴリーされるものが多いです。そういった雰囲気を意識して、私は過去に日本のコンテンツ文化史学会で発表したJRPGの独自の発展史に関する議論を発表しました。日本で発表したのは2010年と相当に昔で、自分は(産業史は書きましたが)歴史の専門家では無いので正式な論文にはしていなかった研究です。英語圏で発表したのは初めてだったのですが、数人の方から興味を持って頂けました。特に、このカンファレスの主催者の一人であるGeoffrey ROCKWELL氏(アルバータ大学)から「学会誌の方のReplaying Japanに是非投稿してほしい」という嬉しいコメントも頂けました。
 自己への反省を込めて書きますが、日本のゲーム研究は、いわゆる「理系」部分に関してはそれなりに海外での発表もありますが、社会科学・人文科学に分類されるいわゆる「文系」の部分の発表は非常に少ないのが現状です。これは、比較的分量が短く(10ページ以内)フォーマットが固まっている理系の論文に比べると、分量が長く(20ページ超も多い)不定型な文系の論文を英語化するのが大変であることに起因する問題で、ゲーム研究に限った話ではありません。しかし、今回の学会参加で、「日本でどう感じられているか/評価されているか」とは別の視点/基準から、日本のゲームに関する議論の標準が形成されていく怖さを感じました(いわゆる「オリエンタリズム」の問題)。Replaying Japanは参加者の半数が日本人ですし、内容も身近なこともあり、国際学会の「入門編」としてもっと多くの「文系」研究者に参加して欲しいと感じました。
 あと、少し余談めいた話になりますが、こういった様々な分野の発表者が集まるカンファレンスでは、各分野の発表の「お作法」の違いがよく見えます。海外のメディア系の発表者の発表は(その学問分野の「お作法」なのか)各スライドが「きれいな写真 or イラスト +1~2行のフレーズ」だけで構成されているものが多かったのでが、「専門外の分野の話をスライドの文字情報のサポート無しで聞く」というのは母国語でも大変です(特に、思弁的な内容である場合は、なおさらです)。それが英語(私は英語は決して得意ではありません)で、となると相当厳しいです。途中で理解することを放棄してしまった発表もありました。
 海外の発表でも、比較・調査を主とした発表ではスライドに文字情報があり、わかりやすかったです。日本人の発表は、(私も含めて)上手く話せなかったときのリスクを考慮してか、重要な部分は全てスライドに文字情報として示されているので、理解が容易でした。

 ノッティンガムはロビンフッドの街として有名で、すごく雰囲気がある町でした。現存する世界最古のパブがあったので中に入ってみましたが、雰囲気は完全にRPGに出てくる「○○亭」という感じです。


ノッティンガムに現存する世界最古のパブ。雰囲気はRPGの酒場兼宿です。

2)(おまけ)フィンランドで病院の診察を受ける
 「海外の長期滞在で病気にかかったらどうなるのか」は以外と知られていないと思います。フィンランドで病院の診察を受ける、というかなりマイナーな情報にはなりますが、今後の方の参考のために少し書いておこうかと思います。
 フィンランドは日本同様に国民皆保険ですが、1年以上住んでいた人が対象です。なので、私のような1年間の留学での滞在者(およびその家族)は利用できません。基本的に自費で診療を受け、その後に渡航前に契約してあった保険会社を通じて払い戻しを受けることになります。
 フィンランドでは、病院は基本的に事前予約してから受診します。細かい制度的な話は省略しますが、フィンランドには公立/私立の2種類の病院があり、公立は安いけど診察を受けられるまでに時間がかかる(簡単な風邪ぐらいなら治ってしまうぐらいの時間がかかります)、私立は当日予約もOK(Webで簡単に予約可能)だが高い(2倍程度とのことです)、という感じです。
 診察までに時間がかかってしまうこともあり、ちょっとした風邪などは市販薬で治してしまう文化です。薬局(APTEEKKI)では日本では処方箋が必要な薬効成分多めの薬が販売されています。風邪や発熱で使うイブプロフェンやアセトアミノフェンの錠剤は、日本の薬だと3回分(=1日分)が1錠に入っている感じで、さすがによく効きます。また、白夜のシーズンは睡眠障害がおきやすいので、睡眠を促すホルモンであるメラトニンが売られています。
 私は幸いなことにこちらの医療機関にかかっていないのですが、妻が胃腸炎で一度体調を崩したときは私立病院で診察と検査を受け、私が英語で病状を説明しました。その後うつになったときはフィンランド在住の日本人の方に医療通訳をお願いする形でカウンセリングを受けました。
 私立病院で自費診療、というとで金額が心配になる人もいると思います。これまた、将来必要になる人が出たときのために参考例として記しておきます。
 胃腸炎での診察と検査(血液検査,尿検査、便検査)が約240ユーロ(約3万円)でした。医療機関にかかる判断までに時間がかかってしまい(妻には申し訳ないことしました)、結果的に細菌感染症が治りかけの状態で診察にかかったこともあり、薬は処方されませんでした。
 一方、うつでのカウンセリングが1時間あたり100ユーロ(約13000円)+医療通訳1時間あたり74.4ユーロ(約9600円)、処方された薬(1ヶ月分)が150ユーロ(約14000円)といったところです。これを複数回受診しています。さすがに高額です。
 皆さんも、海外に行かれるときは保険をかけておくことをお忘れ無く。なお、医療通訳は保険の対象となりますので、自分で説明するのが難しい状況では躊躇無く利用されることをお勧めします。


フィンランドの代表的な私立病院の一つであるメヒライネン病院。